全国講演の第1週目は、4月4日(金曜日)の株式投資家向け@東京Dayのみで終わった。第2週は、東北トリップが2回組まれているのだが、珍しく時間に余裕のあるゆったりとしたスケジュールである。前回の全国講演のように寝台列車を乗り継いで中国地区から東北へ移動などという無茶苦茶なものではないのだ。このチャンスを活かして、東北の有名土偶さん達を訪問する計画を綿密に組んだ。ターゲットは3カ所。岩手県立博物館、青森の是川縄文館、そして山形県立博物館である。
まずは、岩手県立博物館である。4月7日に顧客訪問とディナーを終え、その日は盛岡市内のホテルに宿泊した。翌8日、朝から「縄文ハンター 大久保」は活動開始したのだ。岩手県立博物館の開館時間は午前9時半である。博物館に向かうバス路線はあるにはあるのだが、開館時間にちょうどマッチするようなバスは無い。8時50分過ぎにホテルをチェックアウトし、ホテルから徒歩で数分の盛岡駅へと向かった。駅のコインロッカーに全国講演のお供「RIMOWAのパイロットケース」を預け、その後、タクシーの乗り場へと移動した。岩手県立博物館には、タクシーで15~20分程度と事前に確認済みである。タクシーは渋滞に巻き込まれる事無く順調に走行し、9時20分ちょっと前に岩手県立博物館前の広大な車寄せスペースに到着した。
博物館へと向かうこれも広々とした階段の前に小さな建物(小屋と呼ぶのが妥当かもしれない)があった。中には、守衛さん兼案内係のような初老の男性が1人。目が合うと「開館までもう少しお待ち下さい」と声をかけてくれた。博物館見学後の移動手段を決めていなかったので、ちょうど良いと思い相談した。その結果、博物館前にはタクシーの待ちは無く、案内所で呼んでもらうしかない事が判明した。結構面倒だ。どうしようか思案していると、博物館近くの停留所を10時28分に発つバスがある事を教えてくれた。盛岡駅への到着予定は11時10分である。11時25分盛岡発の新幹線に乗る計画であったので、ちょうど都合が良い。この案内所からバス停までは徒歩3~4分程度の距離なので、11時20分までに博物館の見学を終える事とした。これで盛岡駅までの移動スケジュールは固まった。アドヴァイスいただいたお礼を言い、博物館への階段を歩いた。階段の最上部まで歩むと、目の前の視界が一気に広がって、右手に岩手県立博物館のお洒落な建物が見えた。青空に良く映える茶色の、そして現代的造形美の堂々とした建物である。
そのまま歩いて、博物館の正面入り口前に立った。開館まで残すところ数分だ。博物館周辺の写真を撮影するなどしていると、9時半ちょうどに入り口が開いた、すぐに入り口左手にある受付で入館料を支払う。さあ、博物館内の探訪開始だ。10時20分まで、見学とショッピングを50分間楽しむ事が出来る。
岩手県立博物館でのお目当ては2つの重文土偶である。ひとつは「大型仮面土偶」、もうひとつは「遮光器土偶」であり、しゃこちゃんに負けない位の有名土偶サンなのだ。案内板で土偶サン達の展示場所を確認する。2階である事が判明。時間に余裕があるので、1階から見学順路に沿って回る事にした。1階には、縄文土偶に劣らず大好き(得意)な野鳥コーナーが設けられていた。その他、海の生物、植物、鉱物等々の展示品を15分程見て回った。
有名土偶サンご対面の心の準備が整ったので、2階への階段に向かった。階段と言っても展示スペースを兼ねており、馬鹿でかい恐竜の骨格標本等がそびえ立っている。建物だけでなく、展示物も見応えのある博物館だなと感心した。結局、2階に辿り着くまでに入館から20分程を費やしてしまった。もう順路は無視して、土偶展示スペースに直行だ。
お目当てはすぐに見つかった。縄文コーナーの2トップといった感じである。撮影した写真から3枚だけ選んで紹介しよう。
それにしても、縄文土偶になぜこれ程に心惹かれるのだろうか? 自分でもよくわからない。函館での「かっくうちゃん」との出会いは、小災厄期脱却のきっかけとなったわけだが、その他の土偶からもパワーのようなものが伝わってくる。「ミステリアスな躍動感」とでも表現すべきであろうか。兎に角、縄文土偶は何か不思議な力を秘めているのだ。眺めては写真を撮影し、また眺める。ちょっと離れて遠目で眺め、また近寄る。今度は角度を変えて撮影し、また眺める。ごく限られた数の縄文土偶サン達にこんな儀式を繰り返していると、あっという間に25分程が経過してしまった。バスの時間を考えれば残り時間は5分程である。
縄文土偶探訪の締め括りとして、記念の土偶グッズを購入せねばならない。足早に1階のミュージアムショップに向かった。割と広いスペースに様々なグッズが整然と並べられている。ここも土偶は One of them の総合博物館なので、土偶関連のグッズは少ないだろうと予想していたのだが、何故か、レジ前の一等スペースに土偶のミニチュアらしきものが並んでいる。大きさは、どれも縦8〜9cm、横 5〜6cm程度だろうか。黒い何か不明な素材で作られている。これまでの博物館では目にした事がないものだ。おぉ、これは凄いぞ。大当たりかなとの思いが頭をよぎった。だが、綺麗に並べられているミニチュアを眺めて違和感を覚えた。縄文の女神、しゃこちゃん(遮光器土偶)、縄文のヴィーナス、ミミズク土偶等々。国宝、重要文化財級の堂々たる顔ぶれなのだが、肝心の岩手県立博物館の重文土偶サン達のミニチュアがないのだ。
ミュージアム・ショップの女性職員さんに尋ねた。「あの~、こちらの博物館の土偶のミニチュアは置いてないのですか?」。職員さんは申し訳なさそうに「当館の土偶についてはミニチュアはありません。」と答えた。ああ、やはりそうなのか… そして「当館の土偶に関連した商品は、こちらの書籍、それから、あちらに一筆箋があります。」と控えめに教えてくれた。書籍名は「いわて ドグウ☆ガイドブック 土偶王国」さかいひろこさんと米山みどりさんの共著とある。これまで見た事もない本だったので迷わず購入。一筆箋は「土偶グッズ」の定番モノなのでこちらも当然購入だ。
迷ったのがミニチュアさん達である。岩手県立博物館で初めて見るモノなので物欲をそそる。ただし、私がイメージしている土偶サンのレプリカより、かなり小さい。オフィスにおいてもパワー・アイテム的存在感は発揮してくれないだろう。結局、遮光器土偶とミミズク土偶の2つのみ購入する事とした。ミニチュアの中でも、この2つのバランス感がどてもお洒落に感じたからだ。
そうこうしている内に、5分間の残り時間を使い切ってしまった。名残惜しかったのだが、岩手県立博物館を後にした。県立博物館の入り口からバス停までは、徒歩で5〜6分を要した。バス停に着いたのは発車時間の3〜4分前である。ところがいつまで待ってもバスが来ない。バス停を間違えたのか、或いは、何らかの理由で既にバスは発車してしまったのか...結局、バスは約8分遅れてバス停に着いた。盛岡発の新幹線の発車時刻には、余裕があると考えていたのだが、ちょっと怪しくなってきた。路線バスに乗車するのは何年ぶりだろうか? いつもの空港バスの感覚でそのまま座席に座ろうとしたところ、後方で乗客のおばさんが「乗車券抜いてないわよ〜」と叫んでいる。失態である。
時間がタイトである事の焦りや「バスの乗り方も知らないオッサン」風の失態を忘れるために、バスの車中でミュージアムショップで購入した「いわて ドグウ☆ガイドブック」を読んだ。これは『名著』である。岩手県内で出土した様々な土偶を、イラストや写真を豊富に使いながら「4コマ漫画」風に解説している。個々の土偶に関する解説はユニークだ。土偶に関する対談なども掲載されており、世の中には、筋金入りの土偶マニア(ヲタク)が存在する事が確認できた。本の中に都道府県別土偶出土数マップが掲載されていた。これを見ると、出土数はNo.1は「岩手県」である。これに次ぐのが、我がホーム・グラウンド「長野県」と「山梨県」だった。岩手出張の楽しみが増えたなと思う一方、長野・山梨周辺の土偶サン達をもっと熱心に訪問せねばならないと反省した。
バスは当初の8分の遅れを解消する事なく、悠々と走行を続け、11時19分過ぎに盛岡駅のバスターミナルに着いた。バス料金を支払い、ターミナルを早足で移動、盛岡駅のエスカレーターを駆け上がる。コインロッカーでスーツケースを回収(これで時間をロスった)、新幹線改札を慌てて通り抜け、息を切らして新幹線ホームに上ると、ちょうど乗車予定の新幹線がホームに入ってくるところだった。滑り込みセーフである。
私は、通常、顧客向け講演の際には、かなり時間に余裕をもったスケジュールを組む。あたふたする事など滅多にない。これは、野村證券の教育の賜である。でも、縄文土偶探訪の時は別である。もともと隙間時間に無理な予定を組むのだから、どうしても綱渡りになる。慣れていないので、これが結構、新鮮で楽しい。ゆえに『縄文土偶探訪記』は、土偶サン達との対面の瞬間だけでなく、前後の旅程・行程も含めて堪能するつもりでいる。新幹線のシートに座った瞬間、岩手県立博物館 縄文土偶サン達の探訪記は無事に終わりを迎えた。
新幹線で八戸に向かい、その後に控えているのは国宝『合掌土偶』@是川縄文館の探訪である。4月8日は「縄文ハンター 大久保」にとって極めて重要な1日なのだ!
トリグラフ・リサーチ 稿房主
(Vol.378)