盛岡駅で滑り込みセーフの乗車をした新幹線は36分後、定刻通りに八戸駅に到着した。国宝『合掌土偶』@是川縄文館探訪記の始まりである。全国講演中については、土偶が収蔵されている博物館への移動は、往路か復路のどちらか一方を(可能な限り)、ローカル線や路線バスを使おうと考えている。講演で全国を飛び回っていると言っても、私が知るのは、銀行の本店と駅・飛行場の周辺程度である。銀行の経営基盤である地域の雰囲気を知る良い機会だと思う。
八戸駅で乗り換え、八戸線でお隣の本八戸駅へと移動した。所要時間は、駅での乗り換え・待ち合わせ時間を含めても30分弱だ。駅を降りてみると、人影はまばらである。のどかな雰囲気が、雑踏嫌いの私には心地良い。是川縄文館へ向かうバスの乗り場は、駅前のロータリーの一角にあった。バス停で気長に待つ事約15分、漸く、路線バスが到着した。盛岡での失態を繰り返さぬよう、今度はちゃんと乗車券を発券機から引き抜く。座席は半分程が埋まっており、後方座席に座った。いざ、是川縄文館へ!、バスは走り出した。八戸市内のバス停で3~4カ所程停車した頃には、バスの座席は、乗客でほぼすべて埋まった。私を除いた平均年齢は70代の半ばといった感じだろうか? 元気で楽しそうな会話があちこちから聞こえてくる。「高齢化社会のパワー」のようなものを改めて実感した。バスの旅は25分程度、今度は、ほぼ定刻通りに是川縄文館前の広大なロータリーに到着した。
午前中に訪問した岩手県立博物館のような大きさではないが、是川縄文館も堂々とした造りである。エントランスに続くスペースで、恒例のパンフレット収集を完了。1Fにいた男性職員に尋ねると、受付及び展示室は2Fとの事。階段を上がると、すぐに受付スペースがあり、2名の女性職員がちょこんと座っていた。入館料は250円で、1,000札で支払うと、当たり前だが750円が戻ってきた。但し、おつりの中の500円玉が普通(当たり前)ではないのだ。職員さんから「500円玉は記念硬貨で、自動販売機では使えない場合もありますので、ご注意下さい。」という説明があった。驚いて500円玉を見ると、片面に三内丸山遺跡の大型掘立柱建物、しゃこちゃん、そして、合掌土偶がデザインされている。現在の私の嗜好にピッタリである。これはもう「宝物」だ!もの凄く得した気分で、展示室に向かった。
展示室で待ち構えていたのは、ちょっとした驚きだった。真っ暗な室内の中で、赤、黄、緑等、鮮やかな色の光が輝いている。最初は、宇宙への旅立ちをイメージでしているのかと思ったのだが、ここは「縄文館」である。おそらく古代へのタイム・ワープ的演出効果なのであろう(解説があったのだと思うが、見過ごしてしまったようだ)。この幻想的な入り口をさらに進むと、展示室が広がっていた。入り口程でないが、ここも暗い。そんな中で、展示ケース内の土偶サン達がまるで闇の中に浮かび上がるように配置されている。幻想的で凝った展示スタイルである。函館市縄文文化交流センターでは、国宝中空土偶の「かっくうちゃん」の展示室も暗く、まるで宙に佇んでいるかのような神々しさが感じられたが、是川縄文館では、展示室全体がそんな感じだ。「縄文館」の名が示すように、土偶や土器の「波状攻撃」とでも言い得るような展示数である。国宝「合掌土偶」の1点豪華主義ではなく、本当に見応えがある。一般の常設展示室だけで40分以上の時間を費やしたように思う。今回も土偶サン達を「激写」したのだが、その内の2枚(除く、合掌土偶)を以下に掲載する。展示されている土偶サン達のバラエティーの豊かさでは、これまで訪問した博物館・考古館の中では、間違いなく最高水準にある。
是川縄文館においても、国宝土偶は別室「国宝展示室」に鎮座している。いよいよ「合掌土偶」サンとの対面の時だ。「うっ、宇宙空間に浮いている...」その幻想的な光景に絶句してしまった。かっくうちゃん、縄文の女神、そして、仮面の女神に合掌土偶。国宝級の縄文土偶サン達は、発するパワーが圧倒的である。「合掌土偶」が醸し出すイメージは、ずばり『祈り』である。おそらくは、縄文人の様々な祈りが託されているのであろう。掌を合わせて祈るという行為は、現代も縄文時代も何も変わらないのだなと勝手に解釈した。解説文には、合掌土偶は全身が赤く彩色されていたらしいと記してあった。縄文人の集落の中で、本当に大切に崇められていたに違いない。
国宝展示室には、離れがたい魔力のようなものが確かに感じられた。時間にして、15分強、様々な角度から眺めては写真を撮影し、また眺める。そんな所作を繰り返した。私以外の見学者はいなかったので、「至福の時」だった。かっくうちゃんの時と同様、まだまだ見ていたいという気持ちが強かったのだが、今回も滞在可能時間は1時間程度である。最後に「国宝指定書」をパチリと撮影し、展示室を後にした。一般展示室と合わせた滞在・見学時間は55分程であった。本当に「幸せ」な時間であり、合掌土偶を筆頭に、土偶サンパワーにしっかりと浴す事が出来た。
残った時間は、ミュージアム・ショップでの縄文土偶グッズの購入だ。「縄文ハンター 大久保」のミッションは、まだまだ終わらない。合掌土偶のミニチュアがある事を祈りつつ、1Fミュージアム・ショップへと向かった。女性職員数名で、ミュージアム・ショップと隣接する喫茶コーナーを切り盛りしているようだった。合掌土偶のミニチュアは、すぐに見つかった。サイズは数種類ある。八ヶ岳オフィス書棚には、縄文土偶サン達のミニチュア用専用スペースが確保してある。最大サイズの合掌土偶は「迫力満点」なのだが、どう見てもこのスペースには収まりそうもない。結局、2番目に大きなサイズを購入した。遮光器土偶のミニチュアもあったのだが、こちらの購入は見送った。やはり「ご当地物」の購入が基本である。写真葉書やクリアファイル等、定番ものを購入したのは言うまでもない。
嬉しかったのは「眼鏡拭き」である。尖石縄文考古館訪問時に「縄文のヴィーナス」と「仮面の女神」については購入済みで、愛用の眼鏡と共にいつも携帯している。眼鏡拭きは、尖石以外のミュージアム・ショップでは見た事がなかったので、コレクションはその2枚に留まっていた。ところが、是川縄文館には、ご当地「合掌土偶」を筆頭に、かっくうちゃん、縄文の女神、しゃこちゃん等、全「国宝」及び有名「重文」土偶サン達が勢揃いなのである。結局、尖石の2体以外のものをすべて購入した。眼鏡ケースと共にパワーグッズ(お守り)として常に持ち歩こうと思う。持ち歩きのローテーションを組む楽しみが出来たのだ (^_^)v
是川縄文館の帰路については、八戸駅までタクシーを利用する事にした。1F事務所で確認すると、タクシー会社に連絡すれば10分程で、縄文館前のロータリーに来てくれるらしい。元々は、本八戸駅へのタクシー移動を計画していたので、八戸発の新幹線の時間から逆算すると20分程の余裕時間が出来た。ミュージアム・ショップ脇の喫茶コーナーで珈琲でも飲もうかと思い、テーブルに移動した。するとそこに、カレーらしき食欲をそそる香りが漂ってきた。そう言えば、移動の空き時間が中途半端で昼食を食べていなかった。メニューを見ると『縄文カレー』とある。ここまで徹底している「是川縄文館」の姿勢は見事である。勿論、これを注文した。『銀行業界鳥瞰図』の番外編は、グルメ・レポートではないので、詳細な解説はしないが、縄文の工夫をたっぷりと詰め込んだ「縄文カレー」は美味で、何故か懐かしい味がした。
元証券マンの超高速飲食ペースで縄文カレーを平らげ、タクシーの手配をお願いした。幸い、縄文館周辺にいる車が1台あったようで、5分程度でロータリーに到着可能との事だった。ちょっと気が早いが、外で待とう。岩手県立博物館と合わせると、1日で、国宝土偶1体と重要文化財土偶3体に対面できたのだ。4月8日は「縄文ハンター 大久保」にとって、重要かつ実り多き1日だった。
トリグラフ・リサーチ 稿房主
(Vol.384)