確信はないし自慢もできないが、おそらく私は「味覚音痴」である。そして同時に「(普通の)音痴」であり「運動音痴」も兼務しているような気がする。「音痴3重苦」ではあるが、「分析結果を書いて話して伝える」アナリスト稼業には何の支障もない。
「味覚音痴」ではないかと悟ったのは今から20年程前の事だ。川崎自宅で朝食の際に、テーブルの上に黒い液体に満たされたマグカップが置かれていた。社主さまがミルクを入れ忘れたのと思い、自分で入れて飲んだ。「今日の珈琲はコクがあって美味しいね」みたいな事を社主さまに伝えると、彼女がキョトンとしていた。その後「アナタ、それは麦茶よ!」という無慈悲な言葉が返ってきた。
私にとって、一番美味しい料理は「社主さまの手料理」だ。結婚してから、いつも「美味しい、美味しい」と言いながら、残さず平らげてきた。その結果、社会人になる際には60kgに満たなかった体重がピーク時には90kgに達したのである。だが、この「麦茶が美味しい珈琲事件」以来、社主さまは私の味覚を信じなくなった。その結果、私も徐々に「自信喪失」。当稿房通信で「食レポ」が「番外地」的扱いである背景には、そんな悲劇(喜劇?)があるのだ。
20年程前の事件以来、珈琲は特に「鬼門」である。実際、レギュラーでもインスタントでも味の違いがよくわからない(わからなかった)。「早くて手軽に」が最優先だったので、アストリアなどのスティックタイプのカフェオーレが長らく私のお気に入りであった。
だが、八ヶ岳にオフィスを構えるようになってから、ちょっと格好を付けて、珈琲の老舗「ダイヤモンド珈琲」さんのドリップバッグセットを購入し、愛飲するようになった。「くつろぎの珈琲」「目覚めの珈琲」「ゴールデンアロマ」の3種類のブレンドなのだが、正直、味の違いがわからないまま飲み続けてきたのである。
だが、何故か、今年になってちょっと状況に変化が生じた。おそらく「慣れ(或いは、異常気象のせい)」だと思うが、ボンヤリと味や香りの違いを感じるようになり、珈琲の美味しさが何となくわかってきた。社主さまに「八ヶ岳に行き付けの珈琲ショップ見つけたいんで付き合って」なんて生意気な事を言うようになったのは、ここ数ヵ月の事である。
転機が訪れたのは前々回の八ヶ岳オフィス滞在時である。4月にサービス開始したばかりの動画配信プラットフォーム「Paravi」で「マツコの知らない世界」の過去の放送をデスクトップPCで流し見していたら、#133「おうちコーヒーの世界」の順番になった。「ああ、この回、鬼門の珈琲ネタだから、サラッとしか視てないんだ。」と気が付いて、改めてじっくりと視聴。
焙煎士 後藤直紀さんによって、様々なお奨め珈琲メーカーが紹介されたが「真打ち」として登場したのが、パナソニックの「NC-A56」だった。番組で紹介された参考価格は27,864円(税込み)。珈琲豆の投入から淹れ立ての珈琲が出来上がるまでのプロセスに素直に感動。マツコ先生の「こいつスゴいテクニシャンですよ」というコメントも相変わらずナイスだった。
番組を見終わった後、NC-A56で珈琲が飲みたくて堪らなくなった。すぐに楽天とAmazonで値段を調べたら、楽天で「あす楽対応 税込み20,980円」のショップを発見。ポイントも6,000円分位貯まっていたので、すぐに購入を決定。翌日の夕方にはオフィスに配達された。こうして「味覚音痴の珈琲嗜み」がスタートしたのである。
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今朝の起床時間は5時45分。一晩窓を開放した室内の温度は21.9℃に下がっていた。かつてはすぐに新聞チェック→朝のマシン・ウォーキングと定番の行動が続いたのだが、現在は「珈琲豆選び」から始まる。
「今朝の豆は八ヶ岳ブレンドにしようか。」なんてわざと呟きながら(誰も聞いていないが…)、キャニスターからNC-A56に豆を入れる。
「マイルド」コースを選択し「豆」ボタンをプッシュするまではバリスタ気分。その後は7~8分待つだけ。マツコ先生が「テクニシャン」と評したように、様々な音と豊かな香りが八ヶ岳オフィスを満たしてくれる。実際「味覚音痴」が簡単に治るわけはないので、味わっているのは豆を選ぶ事から始まる一連のプロセスなのかもしれない。
こんな感じに「淹れたての珈琲」をじっくりと味わう事から、八ヶ岳オフィスでの1日がスタートするようになった。八ヶ岳での生活がさらに「豊か」になったような気がするのは、珈琲の持つ「魔力」の故か…
しかしまあ、マツコ先生ではないが「NC-A56」の無粋な商品名(ただの型番)、何とかならないのだろうか?