【縄文遺跡探訪記 ②】— 三内丸山遺跡(青森県)

「ちょっと遊び心をまぶした全国講演」ーーー これが今シーズンからの新たな取り組みである。寝台特急サンライズ瀬戸での移動は、正にその一環である。ただし、メインの遊びではない。「講演の隙間時間や土曜日・日曜日に全国の縄文遺跡を訪問する」ーーー こちらが究極の「遊び心」である。以前、役員慰安旅行@函館で、国宝中空土偶「かっくうちゃん」との偶然の出会いに感動したことをお伝えした(第265号https://triglav-research.com/?p=5644) 。以来、有名縄文土偶への憧れが募っている。私にとってアイドルとは、1位「平原綾香」、2位「柴咲コウ(女優ではなく歌手として)」なのだが、「かっくうちゃん」「しゃこちゃん」「縄文のヴィーナス」等々は、既に同レベルの次元にある。ファンクラブがあったら入りたい位だ!

自爆テロの影響で仕事が出来なかった2週間、時間があれば「縄文土偶」の写真集を眺めていた。年末年始に鑑賞しようと思いAmazonで売れ筋2冊を購入しておいたのだ。かっくうちゃんも凄いけど、「縄文のヴィーナス」「縄文の女神」等々はうっとりする程美しい。「しゃこちゃん」や「仮面の女神」は美というよりも、これは何のために作られたんだろうかという興味が湧いてくる。兎に角、実物を見てみたいという思いが日増しに膨らんできた。

そんなわけで、今シーズンの全国講演の前に「有名土偶」の出土マップを簡単に作ってみた。改めて驚いたのが、オフィスがある「富士見町」とそれに近接する「茅野市・諏訪市(長野県)」、「北杜市(山梨県)」が縄文遺跡の宝庫である点だ。これらを訪れるだけで、全体の1/3以上はカバーできそうだ。長野・山梨に匹敵するのが「東北縄文王国」である。通常、全国講演では「東北全県」を数回のトリップで訪問する。綿密な予定を組めば、講演旅行のついでに縄文遺跡を訪れることは十分に可能である。

早速チャンスがやってきた。今シーズン第2巡目の東北トリップが、14日に組まれたのは、既に『銀行業界鳥瞰図』でレポート済みである。寝台特急と新幹線を乗り継いだ移動としたため、午後スタートの最初の講演までに2時間程の空き時間が出来た。目指す第1のターゲットは「三内丸山遺跡(青森)」である。ここには、重要文化財である「大型板状土偶」と有名な大型掘立柱建物跡(復元建物)がある。また、土曜日(15日)には、遮光器土偶「しゃこちゃん」が出土した「亀ヶ岡遺跡(つがる市)」か、国宝「合掌土偶」の出土した風張1遺跡・是川縄文館(八戸市)のどちらかを訪問しようとプランを立てた。中国地区トリップの際に「縄文遺跡回るんだ~い」と自慢げに、同行する講演アレンジャーさん達に伝えると、冷たい言葉が一斉に返ってきた。「東北雪ですよ。遺跡なんて雪に埋まってるはずだし、無謀でしょ!」

あぁっ、雪のことまったく忘れてた...(>_<) 「外にある遺跡の見学が目的ではない。ターゲットは、博物館に飾られている土偶だ!」強がりを言ってみたが、不安が一気に高まった。青森の雪は凄いんだろうな~。不安が募る中、新青森駅に新幹線は定刻通りに到着。早速、観光案内所で三内丸山遺跡が見学可能かを確認した。結論は「可能」、見学時間は様々なコースがあるが1時間もあれば、一通りは見て回れるとの事。宿泊予定のホテルからはタクシーで15分程度の場所なので、時間的にも問題はない。市内のホテルでチェックインを済ませると、そのまま三内丸山遺跡へと向かった。市内の雪は、昨年の訪問時に比べると驚く程少ない。長野オフィスの雪の方がはるかに深い感じだ。問題は寒さである。遺跡には15分ちょっとで到着。タクシーをおりてみたが「寒くない」。朝は、毎日のように零下10度を下回る長野オフィスに比べるとむしろ「暖かい」のだ。オフィスの過酷な自然環境に鍛えられ、私はすっかりワイルドになったようだ。

優しい受付のおね~さんにパンフレットや案内図を渡され、「遺跡探訪の旅」の幕開けである。入館・入場料は無料。なんて良心的なんだ 三内丸山遺跡! 受付から少し歩くと、左手に遺跡への入り口となる通路(トンネル)が見えてきた。屋外遺跡なので、雪道を歩くことは避けられない。でも心配ない。冬の東北トリップは、完全防水・撥水処理済みの滑り止め付ビジネス・シューズで回るのが私の嗜みである。トンネルのドアを開けると...「そこは正に雪国だった。」

これから先を書くとつらくなる。雪に埋もれた遺跡の中をひたすら40分程歩き続けた。2回転びそうになったが、何とか持ちこたえた。自爆テロの恐怖が癒えぬ身体が慎重になっているのがわかった。高校生の頃見た映画「八甲田山」の寒々とした光景とそこで兵隊さん達が歌っていた軍歌が頭に浮かんだ。「雪の進軍氷を踏んで、雪の進軍氷を踏んで、ど~れが河やら道さえ知れず、馬は斃れる捨ててもおけず、...」我ながら、無駄に凄い記憶力だと感心してしまう。これ以上書くと、つらさに泣き出してしまいそうなので、頑張って撮影した遺跡の名前が刻まれたオブジェ(?)と大型掘立柱復元建物の写真だけ紹介しよう。ちなみに「雪の進軍」中、目にしたのは1組3名のおばさん達だけである。

オブジェと言うよりただの「遺跡名」を示した印か?
オブジェと言うよりただの「遺跡名」を示した印か?

有名な「大型掘立柱復元建物」である。 予想していたよりも大きい... でも寒い。

有名な「大型掘立柱復元建物」である。 予想していたよりも大きい... でも寒い。

死の雪中行軍を終えた後、館内(室内)の展示室で、お目当ての「大型板状土偶」に対面、写真撮影をした。つらさはかなり薄らいだ。施設見学を終え、遺跡グッズ・ショップで買い物を終えた頃には機嫌も良くなっていた。アベノミクスを成功させるためにも、日本人はどんどん趣味にお金を使わなくてはならない。オフィスのセルフ・ビルドも遺跡探訪の旅も、すべては日本経済再生のためなのである。さあ、明日は、亀ヶ岡遺跡と是川縄文館、どちらを訪れようか...

お目当ての「大型板状土偶」に遂にご対面

お目当ての「大型板状土偶」に遂にご対面

ホテルへの帰路に乗ったタクシーの運転手さんは、驚く程に遺跡の知識が豊富だった。三内丸山遺跡のタクシー乗り場で待ちをしている事が多いためらしい。これは好都合と思い、「しゃこちゃん」と「合掌土偶」のどちらに会いに行くかを相談した。運転手さんが話した内容を標準語で要約すると ①亀ヶ岡は雪が深い。遺跡まではタクシーで移動するしかないが、かなり時間がかかる。木造駅までの列車は本数が少なく、列車の待ち時間がかなり必要 ②八戸は元々、雪は少ないのだが、今年は雪が例年より多いようだ。そして、凍る程に寒い。八戸駅から縄文館までは、通常、バスを使うが本数が少なく、アクセスは決して良くない。どっちもどっちという感じの憂鬱な情報ばかりだ。遺跡について色々と話をしている内に、タクシーはホテルに着いた。

最後の最後に運転手さんは、すまなそうに爆弾発言をした。「どっちの土偶は本物は上野(国立博物館)だ。こっちで見れるのはどちらも模造品(レプリカ)だよ(標準語翻訳済み)【※注】『きっ、聞いてないぞ~。しゃこちゃんと合掌土偶の本物には、青森では会えないのか!」 翌15日の新幹線の運行状況が不安だった私は、躊躇なく2日目の縄文遺跡探訪を中止。新青森発15時42分で予約してあった新幹線を8時7分発の臨時列車へと変更した。こうして、私の初の「全国講演&縄文遺跡探訪共同企画」は幕を閉じたのだ。

教訓
① 雪深い地での冬の遺跡探訪は極力避ける。やむを得ない場合は万全の装備で臨む。
② 有名土偶については、出土場所だけでなく、現在の「所蔵場所(展示場所)」の確認を忘れない。

【※注】自宅に帰ってから改めて調べてみると、運転手さんの指摘通り、しゃ こちゃんは上野国立博物館の所蔵となっていた。一方、「合掌土偶」は、是川縄文館に展示されていると判明した(運転手さんの勘違いだったようだ)。但し、 国宝クラスの土偶は、国立博物館の「土偶展」や海外の有名博物館に出稼ぎに行く事もあり、やはり、訪問前に「現在の居所」を確認する事が必須のようだ。今回は、完全に私の事前リサーチ不足であった。但し、15日の是川縄文館(八戸市)訪問を見送ったおかげで、新幹線で無事に東京に戻れたわけであり、結果 オーライだったと言える。「合掌土偶」との対面は、少しの間、お預けである。

☆ 「縄文遺跡探訪記」と3月より執筆開始予定の「オフィス セルフ・ビルド奮戦記」は、将来的には別サイト『鳥倶楽部稿房』に移設する計画ですが、当分の間は、『銀行業界鳥瞰図』に間借り致します。

トリグラフ・リサーチ 稿房主

(Vol.312)