イカルと地域銀行、そして、リスとFinTech

私の「野鳥」好きは、銀行業界では、それなりに知れ渡っていると思う。そもそも、TRI稿房通信のヘッダー部分にランダムに表示される野鳥さん達の写真は、八ヶ岳オフィスの給餌台(レストラン)を訪れるお客さんを私が撮影したものだ。右サイドにズラッと並ぶ「縄文土偶さん」の写真に負けない位の存在感を誇示しているものと(勝手に)信じている。

野鳥さん達は、あの小さな体で自由に空を飛び回り、誰に媚びを売る事もなく、過酷な自然環境を生き抜いている。私も、かくありたいと心底思う。そんな彼らを少しでもサポートしたいと考え、毎年、冬になると、川崎自宅では2台、八ヶ岳オフィスでは3台の給餌台に、ヒマワリの種やミカンなどをたっぷりと置いて、彼らにご馳走する。

話がいきなりワープするが、週刊「モーニング」掲載の『鬼灯の冷徹』も大好きだ。あれを読んでいると「地獄」がどういう場所なのか、本当によくわかる。結構、テキトーで軽い感じのキャラの人(鬼)達が運営している世界なので、とても好感が持てるのだが、やっぱり行きたくはない。

万が一、何かの手違いで、死後、地獄に落ちるような事になったら、「私は長年、数え切れない位の野鳥達に餌を与え、彼らを守り、救ってきました!」と、閻魔大王やその補佐官「鬼灯」に善行をアピールするつもりでいる。善行の少なさは、おそらくプレゼンテクニックでカバーできるだろう。そんな事を考えながら、今朝も、3台の給餌台にヒマワリの種を積んできた。「器の小さい人間(小鉢男・小人)」は、このように自身の利害を優先して地道に善行を積み上げて行くのだ。

元々ある2台の屋根付き給餌台は、ウッドデッキと枕木テラスに設置してあるので、オフィスの窓からは見えない。仕事で疲れた時に、窓から、野鳥達が集う給餌台を見る事ができると「最高の癒し」になる。川崎の自宅書斎は、正にそんな環境にしてある。八ヶ岳オフィスでもと考えて、南西側の窓の下に、使わなくなったBSアンテナを加工して給餌台を置いたのは、昨年10月下旬の事だった(https://triglav-research.com/?p=10903)。

給餌台のすぐ近くには、合併浄化槽の設備があり、いらぬ自己主張をしている。八ヶ岳の敷地内で、唯一、目障りな存在なのだが、快適な生活を送る上では必須の設備なので仕方がない。せめて、野鳥の給餌台を側に置く事で、その無粋さを緩和しようと目論んだのだ。

給餌台は、オフィスの窓からは、垂直方向に4m程下、水平方向には7m弱の位置にある。野鳥さん達に警戒感を抱かせずに、じっくりと観察するには、絶好のロケーションである。給餌台を上から眺め下ろす形になるので、この給餌台だけ屋根を設けなかった。雪が積もったら取り除く必要があるのだが、屋根が無い分、直射日光による雪解けが早いようで、予想以上に稼働率が高い。加えて、大型の野鳥さん達にはその開放感が好評なようで、正直、「想定外の大繁盛」となっている。

今日は、10時40分頃、ちょっと遅めの「給餌」となった。本宅で所用を済ませ5分位してオフィスに戻る。オフィスの窓から、給餌台を見下ろすと、もう第1号のお客さんが食事中だった。上得意客である「イカル」さんだ。このお客さん、某国の観光客のように群れをなして到来し、無償のヒマワリの種を「バク食い」して行く。

いつも観察しているのだが、最初は1羽だけ飛んできて、かなり長い時間、優雅に給餌台を独占する。最初の1羽が、私の行動を注意深く見ていて、逸早く飛来するのか(=頭が良い)、或いは、他の鳥達よりも「リスク・テイク」に対する選好が強いのかは定かではない。だが、彼は「創業者利得」を十分に享受する事になる。

最初に飛来した1羽は、数分間に亘って給餌台を独占。一人勝ち状態で「創業者利得」を満喫。給餌直後の飛来に驚く。この鳥は、リスク・テイクしたのだ!私の行動を観察していたのだろうが?
最初に飛来した1羽は、数分間に亘って給餌台を独占。一人勝ち状態で「創業者利得」を満喫。給餌直後の飛来に驚く。この鳥は、リスク・テイクしたのだ!私の行動を観察していたのだろうが?

数分経過すると、2羽目、3羽目が飛来する。これもいつものパターンだ。2羽目までは、目立ったトラブルは起きない。3羽目となると、ちょっと給餌台が窮屈になり、イカルの間に「不快感」や「警戒感」のようなものが漂う事が遠目にもわかる。ちょっと苛ついたような動きになるのだ。

数分経過して、漸く、もう2羽が飛来した。まだ、喧嘩はしていないが、給餌台の上には「緊張感」のようなものが漂い始めた。
数分経過して、漸く、もう2羽が飛来した。まだ、喧嘩はしていないが、給餌台の上には「緊張感」のようなものが漂い始めた。

このイカル達の行動が、何故か、地域銀行を見ているようで本当に面白い。1羽(行)目だけの状態は、XX県ね。やっぱり、美味しいよな。2羽(行)までだと県の数は多いなぁ~。まあ、餌が沢山ある内は安泰だよね。おお、3羽(行)となると●●県だ~ そんなに給餌台(マーケット)は大きくないぞ! — といった感じである。

そして、我が家の給餌台が「肥沃」である事を確認した動きの遅いイカル達が、慌てて給餌台に殺到する。もうこうなると「カオス(Chaos)」である。イカルの間で戦い(喧嘩)が始まる。まあ、東京、大阪、名古屋、福岡、仙台みたいなものだ。よくよく観察すると、イカルの個体の大きさにはかなりの差がある。やっぱり、体の大きい鳥が強いようだ。これは、自然界、銀行業界に共通の『摂理』なのであろう。

4羽目が飛来した所で「喧嘩」が始まった。嘴で突き合っているのがわかる。喧嘩している2羽以外は、まったく無関心。イカルには「連携・共闘」の習性は無いらしい。
4羽目が飛来した所で「喧嘩」が始まった。嘴で突き合っているのがわかる。喧嘩している2羽以外は、まったく無関心。イカルには「連携・共闘」の習性は無いらしい。
給餌台の上に6羽のイカルが... この写真では、まだ喧嘩していないが、直後に、2羽ずつ(計4羽)2組の喧嘩が始まり、給餌台は「カオス」に陥った。
給餌台の上に6羽のイカルが… この写真では、まだ喧嘩していないが、直後に、2羽ずつ(計4羽)2組の喧嘩が始まり、給餌台は「カオス」に陥った。

2羽のイカルが連携して、他のイカルを追い出すような事はあるのかしら? そう思って、じっと観察したが、それらしい動きは無かった。そうだよな、結局、最後に頼りになるのは自分自身。強く大きくならなくっちゃ、厳しい環境の中、生き残れないよね!

おっと、敢えて争いに巻き込まれずに、脇にある切り株の上で、じっと給餌台を眺めている奴もいるな。消耗戦・疲弊戦と距離を置く戦略だろうか… あっ、こいつ、給餌台が2羽になったら、さっと飛び移ったぞ。本当に賢い鳥だな。

ちょっと給餌台から距離を置き、切り株の上から観察している1羽がいた。この直後、右側の2羽が喧嘩を始め、共に、給餌台から飛び去ったら、切り株のやつは、すっと給餌台に飛び移った。いるんだよな。こういう冷静な奴...
ちょっと給餌台から距離を置き、切り株の上から観察している1羽がいた。この直後、右側の2羽が喧嘩を始め、共に、給餌台から飛び去ったら、切り株のやつは、すっと給餌台に飛び移った。いるんだよな。こういう冷静な奴…

イカルの群れの滞在時間は15分程だったろうか。宅急便の配達があり、彼らは一斉に飛び去っていった。給餌台の上に山盛りにしたヒマワリの種は、既に、平らな状態に均されており、「閉店間近」の状態となっていた。まるで、人口減社会が到来しつつある「地方経済」のように…

今日は、イカルだけを紹介したが、こんな給餌台(マーケット)の争奪戦が、日々、様々な野鳥の間で繰り広げられている。だが、給餌台には、別の上得意客が存在する。ヘッダーの写真に登場する「栗鼠(リス)」君である。このリス君、まったく凶暴そうには見えないのだが、彼の食事中は、どんな野鳥もまったく寄ってこない。だから、リス君は、悠々と給餌台に居座って、本来は野鳥さん達の餌であるヒマワリの種を凄い勢いで「収奪」して行く。リス君は、金融業界で言うところの『FinTech』なんだろうな…

今日はリス君の写真を取り損ねたので、以前に撮影したお気に入りの1枚を掲載。手に抱えているのはヒマワリの種だ(この年は種が余ったので6月でも特別に与えた)。FinTechも、こんな愛らしい姿で金融業界に進出しつつあるのかもしれない。
今日はリス君の写真を取り損ねたので、以前に撮影したお気に入りの1枚を掲載。手に抱えているのはヒマワリの種だ(この年は種が余ったので6月でも特別に与えた)。FinTechも、こんな愛らしい姿で金融業界に進出しつつあるのかもしれない。

ここでふと思った。あの優しそうな(愛らしい)リス君と共存関係を築く事ができる野鳥は「安泰」だろうな。イカルだったら、最初に飛んできた1羽がその筆頭候補だろうか? いやいや、切り株の上で、冷静に様子を見ていた1羽も侮りがたいぞ… そう、厳しい環境下では、横並び主義の奴は生き残れないのだ!

「特定のイカル(地域銀行)とリス君(FinTech)が、給餌台の上で、仲良くヒマワリの種を食べている」— そんな日が訪れる事をちょっと楽しみにしている。

トリグラフ・リサーチ 稿房主

Maple Life