「嘘臭い」ものって嫌いじゃない。
「人工甘味料」のあの薄っぺらい不自然な味になぜか惹かれる。
いかにも「嘘臭い人間」は観察していると面白い。そして、ちょっとチャーミングだ(決して付き合う気はないが)。
様々な「陰謀説」の類も、反論を一切寄せ付けない仕組みに清々しさを覚える。
だが、どうしても苦手なモノがある。
それは「エアコンの風」だ。
無理に自然の風に似せようとするセコさが滲み出て、「嘘臭さの矜持」が感じられない。
加えて、あの武骨でお洒落さとは無縁の「室外機」が許せない。
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1999年に八ヶ岳で第2の拠点探しを始めた際に「絶対に譲れない条件」がいくつかあった。
そのひとつが「将来的にもエアコン無しで真夏も快適に過ごせる事」である。
徹底した事前調査で、八ヶ岳西麓であれば「標高1,200m~1,400m」が最適との判断に自分なりに至った。
「気候変動枠組条約」が「地球サミット」で調印されたのは1992年である。
第2の拠点探しの時点では、既に「地球温暖化」は人類にとって大きなテーマとなりつつあったので、その要因も考慮した上での、かなりバッファーを設けた判断だった。
八ヶ岳オフィスの正確な標高は1,320m程なので、ターゲットゾーンのほぼ中間点の物件を購入したことになる。
それでも、地球温暖化の影響は予想以上で、ターゲットゾーンを100m程度引き上げるべきだったかなと最近は思う。
冬は寒ければ、自宅中心の生活を送れば良いだけだ。
それがデュアル・ライフのリスク分散効果なのだから…
新百合ヶ丘自宅に設置しているエアコンは計7台。庭の景観をぶち壊しにしている。
これに対して、八ヶ岳は本宅、オフィス共にゼロ。
本宅での暮らしは今年で23年目になるが、エアコンを必要と感じたことは、大袈裟ではなく、ほとんどない。
ちょっと暑いなと感じた時は、DysonのCoolファンで十分だ(出番は滅多に無いけれど…)。
本宅もオフィスも窓を開けば「フィトンチッド」たっぷりの「森林の風」が爽やかに通り抜ける。
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実は、本宅を購入した際に、売主であった不動産屋さんに「念のため、エアコンを設置した方がイイですかね?」と確認したことがあった。
すると「鉢巻道路周辺でログハウスなんだから、除湿も含めてエアコンなんて置いても使わないから無駄よ。」との答えがすぐに返ってきた。
さらに「そのお金で、エアコンの代わりに、大きなウッドデッキを作った方が素敵よ!」との言葉が加わった。
八ヶ岳本宅とオフィスの所在地である「ログハウス村」では、我が家同様、かなり大きなウッドデッキを併設した家が多い。
おそらく不動産屋さんは、他の家にも同じようなメッセージを伝えたのだと思う。
他人の言う事に耳を傾けないし、信用もしない私が、何故か八ヶ岳の第2の拠点探しの際にお世話になった2人の不動産屋さんのアドバイスだけは素直に聞いた。
だが、八ヶ岳ライフを始めた当初は、何故、「エアコンとウッドデッキ」が代替関係にあるのか、ロジックがよくわからなかった。
そして、2001年に「2回目の八ヶ岳の夏」を迎えた時に、私なりの「答え」が見つかった。
それは「森の風の通り道」の存在である。
夏場は、周辺の財産区林から、本当に涼しい風が吹いてくる。
それは地形や樹木の関係で決して均等ではなく、明らかに幾筋かの「通り道」が存在するのである。
ウッドデッキを財産区林方向に突き出す形で設置すれば、その流れを見事に捉えることが出来るのだ。
結局、「エアコンのニセモノの風ではなくて、ウッドデッキの上で本物の風の流れを楽しみなさい!」というのが、不動産屋さんのアドバイスの本質だったのだろう。
そう解釈した私は、翌2002年の春からメインウドデッキの大増設工事に着手した。
そして、2016年には財産区林からメインウドデッキへと流れる「森の風の通り道」の延長線上に「オフィスウッドデッキ」を増設。
このように、エアコンには見向きもせず、着々と「本物の風」を楽しむスペースの拡大に取り組んできたのである。
ふと気が付けば、敷地内のウッドデッキの総面積は137㎡(約75畳)に達していた。
そして、ウッドデッキは、物件探しの際にお世話になったもう一人別の不動産会社さんからのアドバイスである「庭の展望(俯瞰)効果」という役割も十二分に果たしてくれている。
もっとも、エアコンを1~2台設置するよりも、ウッドデッキの方が、はるかに大きなコストを要しているのであるが…
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昨日は、自宅滞在期間の初日。
朝から晩まで、書斎でもリビングでもエアコンはフル稼働。
あの「嘘臭いニセモノの風」に晒されていると、体力と気力が削がれていくような気がする。
ああっ、やっぱり「森林からの本物の風」に包まれたいな…
by『八ヶ岳稿房主』