八ヶ岳西麓富士見高原は、今日は朝から、秋らしいちょっと冷たい感じの雨がほとんど終日、降り続いた。
オフィスでのデスクワークには最高の環境である。
昼過ぎに雨が止んだ時間があったので、メインウッドデッキに出てしばしの休憩。
ブルーベリさん達の鉢の位置の入れ替え等、細々とした作業をしていた際に、何故か誰かの「視線」を感じた。
方向は「財産区林」の方だ。パッと見たが人影はない。
視線を感じる辺りを丁寧に眺めた。
すると、迷彩服に身を包んだスナイパーが、スコープ越しに私の頭部に狙いを付けているのが見えた。—なんて事は、勿論無い。
そこにいたのは「1頭の鹿」だった。
子鹿と呼ぶ程に小さくはないが、明らかにまだ若い鹿だった。
鹿なんて、毎日のように財産区林を移動したり、夜になると我が家の庭に出没するので珍しくも何ともない。
だが、この鹿は色々な意味で「普通」ではなかった。
まずは「1頭単独」だった事だ。
財産区林や庭に出没する鹿は、通常、「群れ」を形成している。7~8頭から、多い時は20頭を超す事もある。
だから私は「鹿」ではなく「鹿軍団」と呼ぶのである。
例外は、今年の春先からずっと我が家の周辺をウロチョロしていた「2頭の親子鹿」だった。
この親子は目視しただけでなく、監視カメラに頻繁に画像が記録されていたので、我が家周辺がテリトリーなのは間違いなさそうだ。
「2頭だけで行動する鹿もいるんだな…」とちょっと感心した。
私は「人間」も「動物」も、群れたり、連んだりするタイプは嫌いだ。
これは私の「団体行動不適合症」という病のゆえだ。
だから「2頭の親子鹿」には何となく好感を抱いていたのである。
ところが今日のこの鹿は「1頭だけ」である。
単独行動の鹿と遭遇するのは、私にとって初めての経験だった。
もうひとつの特徴は、この鹿は、私と明らかに目が合っても逃げようとしない事だった。
通常、鹿は私に気が付くと一瞬、動きを止めて私の様子を窺う。そして、私がちょっとでも身動きすれば一斉に飛び跳ねて逃げるのだ。
奈良の鹿と違って、八ヶ岳界隈の鹿は「警戒心」が強いのだと思う。
考えてみれば、そりゃそうだ。「神様の使い」扱いされる奈良と違って、八ヶ岳界隈では「狩猟」の対象とされる事もあるんだものな…
だが、この鹿はずっと私の方を見たままだった。
まるで「睨めっこ」しているかのような時間が30秒程続いた。
珍しい鹿なので、写真や動画を撮影したかったのだが、生憎、Noteくんはデスクの上に置いたままだった。
鹿を刺激しないように、そっとウッドデッキを離れてオフィスに戻った。
さすがにもういないだろうなと思いつつ、再びメインウッドデッキに移動して、Noteくんを構えて財産区林を見下ろした。
あっ、まだいた…
財産区林の別方向を向いていたのだが、私が戻ったら、再びまた私の方に顔を向けてきた。
何なんだよ、コイツ。何か私に伝えたい事があるのかな?
これなら動画も撮影できるなと思い、Noteくんで撮影開始。
耳がほんの少し動く程度で微動だにせずに、じっと私の方を見続けている。
まるで「剥製」みたいだな…
今度は3分以上は睨めっこしたように思う。
よくよく見ると、本当に愛らしい顔をした鹿である。
まだ若そうなので、角の有無で雌雄を見分ける事は出来ないが、何となく「雌」だろうなと思えた。
人間だったら間違いなく「美人さん」だな。
私の大好きな「広瀬すず」ちゃん系に思えてきた。
あまりにもずっと私の方を見ているので、もしかしてこれは、本チャンの睨めっこで「笑ったら負け」なのかと思えてきた。
試しに私がニコッと笑ってみたが、彼女(もう雌で決定!)は、やはり動かない。
結局、私が痺れを切らして、ウッドデッキの階段を下りて財産区林の方に歩みかけたところで、彼女は財産区林の奥の方へとゆっくりと歩いて行った。
う~ん、逃げるって感じじゃなくて、「また来るわね!」って感じの立ち去り方である。
結局、初めて視線を感じた時点からだと5分程は、この「可愛らしい鹿」と「不思議な時間」を過ごした事になる。
オフィスに戻った後でふと気が付いた。
あの鹿は、親子連れで出没していた2頭の内の「子鹿」の方じゃないかな?
おそらく「親離れ」をしたのだろう。
根拠はまったくないのだが、お別れを伝えに来たのではなく、「これからもヨロシクね!」と挨拶に来たような気がするのだ。
だったら名前を決めておかなくちゃ!
「すずちゃんに似た鹿」だから「すずかちゃん」に決定だ~
こういう時、瞬時にネーミングできるのは、私の「特技」のひとつである。
今度、彼女が遊びに来た時のために「鹿笛」を常に持ち歩く事にしよう。
これまで、鹿軍団と戦う事ばかり考えてきたので「鹿と仲良くなる方法」がわからない。
あ~あ、調べなくちゃならない事や準備しなければならない物がまた増えたぞ!
「八ヶ岳ライフ」は、日々、新鮮な驚きを私にもたらしてくれる。