もう齷齪せずに、マイペースで楽しく仕事をするために設立したのがトリグラフ・リサーチである。昨年までは、ほぼ目論見通りのペースで仕事を楽しんできたのだが、今年に入って、私の描いたシナリオは完全に崩れ去ってしまったようだ。
先週金曜日まで、講演活動で全国を飛び回っていた。マイナス金利政策導入後に講演活動で訪問した金融機関をカウントしてみたら、もう43行に… トリグラフ・リサーチの従来型講演とSBIのFinTechセミナー・勉強会の合算ではあるものの、多い銀行だと、既に今年に入って3回訪問している。43行という数字は、勿論、こうした重複分を含まずにカウントしたものだ。
本来であれば、5月中旬~6月中旬までの1ヶ月間は「決算分析バトルモード」にトランスフォームして、講演活動は一切引き受けないのだが、今年は、来週には、大手銀行向けプレゼンやら地域銀行の東京支店長・東京事務所長さん向けのセミナーが予定されている。「株式機関投資家向け講演活動はいつから再開するの?」ってな感じの問い合わせも数件寄せられている。「ああ、こんなはずじゃなかった ぶつぶつぶつ…」 最近、こんなぼやきが急増しつつある。
そもそも多忙で、大好きな八ヶ岳オフィスで過ごす時間がない。4月20日に富士見高原病院で家内と一緒に恒例の人間ドックを受けた後、翌日からの講演のためにそのまま川崎自宅にとんぼ返り。次にオフィスを訪問できたのは、5月8日の事だった。17日間も八ヶ岳オフィスを留守にしたのは、トリグラフ・リサーチ設立後初めてである。
9日は講演先に車で移動、その後オフィスに戻り、10日は本当に久し振りにオフィスでお仕事。その日の夜に川崎自宅に戻り、11日、12日と講演で出張。13日は、川崎自宅から講演先へ車で向かい、そのままオフィスに帰還。少しは八ヶ岳でノンビリできるかなと期待していたのだが、私用ができて、翌14日のお昼過ぎに、川崎自宅に向けてオフィスを発った。ウンザリする程、慌ただしい中、昨日から「決算分析作業」に本格着手している。
13日~14日までの1日にも満たない八ヶ岳オフィス滞在ではあったが、新緑に輝く敷地内の自然を堪能し、それなりにリフレッシュ。今年は、庭のソメイヨシノの満開は、残念ながら川崎自宅のデスクトップPCやスマホから監視カメラ経由で楽しむしかなかっので、それを埋め合わせるためにも、敷地内を丹念に見て回り、様々な自然変化を写真撮影してきた。『稿房通信』でいくつか紹介する事としよう。
第1稿は「アミガサタケ(らしきキノコ)の群生」である。場所は、オフィスのエントランスに配したウッドデッキの周辺。初めて目にした際には、その異様な姿に、ちょっとギョッとした。
だが、私は、これでも「森林インストラクター資格」の保有者である。1次試験の筆記4科目「森林」「林業」「森林内の野外活動」「安全及び教育」の内、「林業」には「木材及び特用林産物」という項目があり、ここでは「キノコの種類判定」が定番のように出題される(もしかすると、「森林」の方だったかな?)。試験勉強時代は、キノコ図鑑の類を2~3冊読み込んで、それなりの知識を蓄えていたのだ。「はて? このちょっと無気味な形状には記憶があるぞ。確か、アミガサタケだったような…」ネットで検索をかけると、似たような画像が数多くヒットした。念のため、家内に同意を求めると「確かに、ソックリよねえ。中は見事な空洞だし。」とのコメント。
実は、このアミガサタケ、食用として「美味」なのだ。Wikipediaには「生鮮品を用いる場合もあるが、乾燥品をひたひたに浸る程度の水で戻した上で調理されることが多い。戻し汁にもよい風味が滲出しているので、一度漉して砂粒などを除いた後、調理に用いる。生クリームやバターなどとの相性がよいとされ、グラタンやシチューなどにしばしば使われる。ピッツァ、フライ、スープ、オムレツなどの素材としてもよく使われる。」などと記されている。これは「森からの贈り物だ!」なんて、すっかり良い気分になって、夫婦でもうグルメ気分だ。家内は「クリームパスタに混ぜようかしら」なんて言いながら、アミガサタケ(らしきキノコ)を採り集め出した。
水切り用のカゴに一杯になったあたりで、ちょっと冷静になった。キノコについては素人判断は禁物である。やはり地元のプロの意見を聞こうという事になり、「たてしな自由農園 原村店」に買い物に行くついでに、このキノコを持参。案内コーナーの女性に尋ねると、以前は、キノコに詳しい方が働いていたが、現在は退職。キノコについては食中毒が怖いので、諏訪の保健所で確認した方が良いとのアドバイスを受けた。そんな時間はないし、土曜日なのでこの提案は却下。
仕方ないので、川崎自宅への帰路、富士見高原リゾートの別荘管理事務所に立ち寄り、家内が相談・確認に行った。「兎に角、毒キノコかどうかは外見が似ているものが多いので、専門家(専門機関)の判断が必要。だが、一般的に言うと、このキノコは富士見町界隈の人は食べませんよ!」という明確な否定的見解が寄せられた。
しかしながら、貪欲な豚夫婦はどうしても諦めきれない。とりあえず自宅に持ち帰り、数日、天日で乾燥させ、時間があったら麻生区の保健所に持ち込んでみようというのが家内の意見だった。私は「否。とりあえず食してみよう」と考えた。勿論、自分で食するのは怖いので嫌だ。こういう時は、息子達が重宝するのだが、3人それぞれの赴任先で働いており、残念ながら不在だ。千葉の実家の両親で実験する案も浮かんだのだが、千葉最南端の町までの移動時間が勿体ない。それに本当にアミガサタケで美味だったら、ちょっと腹立たしい。「気分は、エドワード・ジェンナー」になりかけたのだが、この気宇壮大な構想も頓挫した。
結局、15日、16日と丸2日、川崎自宅2Fのバルコニーで天日干しした。キッチンに持ち込み「これどうしようか?」と家内が呟く。とりあえずもう一度、水洗いして様子を見ることとした。水洗いして、30分程が経過。2Fのリビングに入ると何やら「異臭」が漂っている。強烈な悪臭ではないのだが、湿った雑巾がそのまま乾くことなく数日放置されたような「香り」で、気分が悪くなった。
夫婦の総意として、即、廃棄処分が決定したのは言うまでもない。こうして「豚夫婦のアミガサタケ騒動記」は幕を閉じた。ああ、こんなはずじゃなかった ぶつぶつぶつ…
トリグラフ・リサーチ 稿房主
【八ヶ岳ライフ】