【縄文土偶探訪記】第1ステージで「国宝土偶」「国指定重要文化財」級の土偶さん達の大半との対面を果たした私は、本年3月からの第2ステージでは「名も無き土偶さん達」探訪に軸足を移した。「名も無き」とは言っても、Web検索するとすぐにヒットしたり、博物館の看板収蔵品のひとつとして扱いを受けるような「それなりに有名」な土偶さん達が探訪の対象であった。だが、そんな土偶さんも、数はそう多くはない。4月の全国講演を終えた時点で、探訪対象とする土偶さんを探し出すのが、だんだん難しくなってきたのである。
そんな中、7月の全国講演シーズン突入と共に【縄文土偶探訪記】も第3ステージへと移行。弊社Web経由で寄せられた「土偶情報のたれ込み(どぐたれ)」と「土偶・コスモス」「縄文美術館」「はじめての土偶」等の土偶関連書籍(写真集)を頼りに、よりマイナー(マニアック)な領域に踏み出す事となった。
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7月22日は、日帰りの北海道出張。前日の三重、翌日の福岡・島根のそれぞれ日帰り出張に挟まれた弾丸ツアーの中日であった。朝一番の講演が9時半から札幌で組まれていたので、午前4時台の空港バスで自宅最寄りの新百合ヶ丘駅を発ち、6時半発の(珍しく)JAL札幌便で新千歳空港に向かう。午前と午後の講演の間に、情報収集のための面談・会食を2件入れた。土偶探訪のために確保出来たのは、移動時間を含めて11時から12時45分までの時間帯のみである。
この限られた時間の中で、今回目指したのは『北海道埋蔵文化財センター(江別市)』。弊社Web経由で寄せられた「土偶情報のたれ込み(どぐたれ)」が探訪の切っ掛けとなった。同センターの最寄り駅は、新札幌駅であり、そこから車(タクシー)で約4km、時間にして15分程の場所にある。その後のスケジュールを考えると、往路は札幌駅発11時25分(新札幌駅着 11時33分)、復路は新札幌駅発12時31分の快速エアポートに乗車せねばならない。土偶探訪に使える時間は、駅構内での移動時間やセンターまでのタクシーでの往復時間を除けば、正味20分程度となる。こんな感じに、分刻みのスケジュールを組む事も、まあ、それなりに楽しい。
計画通り新札幌駅でタクシーを拾い、センター駐車場に着いたのは、11時49分だった。流しのタクシーが拾えるようなロケーションでない事は事前に確認済だったので、乗ってきたタクシーにそのまま待ちを依頼。12時10分ちょうどに戻ると運転手さんに告げて、堂々たる造りのセンターのエントランスへと向かった。
時間に余裕が無かったので、足早に受付へと向かった。入館料は無料。写真撮影可である事を女性の職員さんに確認し、受付左手の通路を抜けて「展示室」へ。入り口付近でお仕事中の男性の学芸員さんに挨拶をし、慌ただしく縄文土器を中心とした展示物を鑑賞。
今回、最大のお目当ては、北海道千歳市 美々4遺跡出土の「板状土偶(Slab-formed dogu)さんである。私の土偶探訪のバイブルと化している 『土偶・コスモス(羽鳥書店)』及び『縄文美術館(平凡社)』両方で紹介されており、特に後者では1ページ目に写真が掲載されている。
この土偶さん、多量の紅殻(赤い顔料)が撒かれたお墓の穴から俯せの状態で発見されたとの事。両耳の穴は「耳飾り」、後頭部の突起は「櫛」をさしたものと考えられているようだ。「板状土偶」に分類されているようだが、厚みはそれなりにある。お腹の膨らみは「妊婦」さんである事を意味しているのだろうか? 腰や肩の辺りには、刺してつけたような模様(刺青?)がある。要は、とっても「お洒落な土偶さん」なのだ。
実は、土偶さん以外にも、探訪ターゲットは2体あった。ひとつめは、北海道千歳市ママチ遺跡出土の「土面(Clay mask)」である。こちらは、墓穴の上面付近で発見されたとの事。厳かな表情が印象的である。土面の両端には、左右2カ所ずつ穴があり、ここに紐を通して、お面のように被せたのだろうなと想像してしまう(実際には、木柱の墓標にくくりつけられていたらしい)。『縄文土偶』の範疇からは、ちょっと逸脱したターゲットではあるが、対面できた事は本当に嬉しい!
もうひとつが、上記土偶さんと同じく美々4遺跡出土の『動物型土製品』であり、こちらも、かなり有名なものだ。角度によって、水鳥や海獣に見えると聞いていたが、私には何となく亀甲類のような気もする。縄文時代の動物型土製品は、熊、猿、犬、梟、シャチ等々、一目でオリジナルが判別する物が多いのだが、この「ミステリアス」さは群を抜いているように思える。「板状土偶さん」以上に時間をかけて、じっくりと鑑賞してしまった。
「あぁ、そうだ。20分しか時間がないんだ…」 腕時計を見ると、もう12時8分だった。後ろ髪引かれる思いで、私は展示室を後にして、タクシーが待つ駐車場へと向かった。
第3ステージ以降は、こういった「慌ただしい」縄文土偶探訪が増えそうだ。限られた時間で大いなる充足感を得るためには、綿密な事前調査が必要となる。今回の「北海道埋蔵文化財センター」探訪では、従来以上に、関連書籍・写真集を読み込んで臨んで大正解だった!
トリグラフ・リサーチ 稿房主
探訪日:2015年7月22日(水曜日)
『縄文土偶探訪記』 Vol.24