【縄文土偶探訪記⑩】— 山梨県立考古博物館(山梨県)

2015年3月11日。東日本大震災からちょうど4年目となったこの日、私は八ヶ岳オフィスに出勤するために午前7時40分に川崎自宅を愛車D4で発った。通常よりも1時間以上遅い出発である。平日の通勤時間帯と重なった上、途中、給油とコンビニに立ち寄ったので、八王子ICを通過したのは午前8時35分過ぎだった。気分的にはここからが本当の高速道通勤モードだ。

自宅を発つ際には、薄曇りであったが、相模湖ICを過ぎた辺りから澄み切った青空が眼前に広がり始めた。子供の頃からの悪い癖で、青空を眺めていると仕事 (勉強)をするのが嫌になってくる。大月JCTを過ぎても、珍しく雲ひとつ無い。ついにこの気紛れな性癖が抑制できなくなってしまった。

「釈迦堂遺跡」にでも寄って行こうか? そんな思いが頭をよぎった。だが、釈迦堂PAに隣接するあの「縄文土偶の宝庫」は、昨年の4月と11月、二度、探訪済みである。「他に中央道周辺で土偶さんの新規開拓はできないかな?」と考え直した瞬間に閃いた先がある。そうだ「山梨県立考古博物館」にしよう。

中央道甲府南ICのすぐ近くに「山梨県立考古博物館」がある事は、数年前から認識していた。二男の赴任先が某メガバンクの甲府支店であり、彼のマンションに 荷物を届けるなどの所用のため、幾度となくこの博物館の前を通り過ぎていたのだ。その気になればいつでも訪問可能であるロケーションと国指定重文クラスの 縄文土偶が展示されているか否かが定かでないため、これまで未探訪。「名も無き土偶の探訪」に踏み出す上で、ある意味、最適の地である。決~めた。ここに寄って行こう!

甲府南ICを降り。そのまま突き当たりのT字路を甲府市内方向に右折、おそらく100mも走らない場所に山梨県立博物館はあった。広々とした駐車場にD4を 置き、歩いて博物館に向かった。考古系の博物館は「県立」ともなると、どこも堂々とした立派な造りとなる。勿論、山梨県もその例外ではなかった。

山梨県立考古学博物館の入り口  「県立」の博物館らしく堂々とした造りである。
山梨県立考古博物館の入り口
 「県立」の博物館らしく堂々とした造りである。

入館料210円を支払い、早速1階の常設展示場に向かう。常設展示場は「旧石器時代」「縄文時代」「弥生時代」「古墳時代」「歴史時代」の各コーナーが設けられていたが、私のお目当ては、勿論、「縄文土偶」である。さあ、どんな土偶サンに対面できるか? 事前の調べがまったくない状態で訪問したので、ワクワク感がむしろ高まった。

石器や土器がズラッと並ぶ展示ケースを順番に見学していくと、右手に赤い台座に置かれた土偶らしきものを発見。これまでの経験では、こういった目立つ台座は、その博物館の主役にあてがわれる事が多い。私の予想は的中。笛吹市境川町一の沢遺跡出土の縄文中期の土偶であり、山梨県立考古博物館所蔵の「重要文化財」との解説が付されていた。台座の側には「当館ポスター・パンフレットにも掲載  この土偶の愛称は『いっちゃん』です。」との添え書きもあった。一の沢(いちのさわ)遺跡出土なので「いっちゃん」なのだろう。間違いなく、この博物館の「看板土偶」である。

山梨県立考古博物館の看板土偶 笛吹市境川町一の沢遺跡出土の 『いっちゃん』 --- 重要文化財(国指定かな? 県指定かな?)
山梨県立考古博物館の看板土偶笛吹市境川町一の沢遺跡出土の『いっちゃん』
— 重要文化財(国指定かな? 県指定かな?)

さ らに常設展示室を奥に進むと「土偶コーナー」があった。大型の陳列ケースの中に、大小様々な土偶が陳列されている。が、すぐに気付いた。その内のかなりが レプリカなのである。陳列ケースの奥には、4体の大型土偶が並んでいるのだが、写真右奥は上野東京国立博物館で対面を果たした「猫顔土偶」さんだ。出土は笛吹市御坂町上黒駒、そう故郷は山梨県なのだ。

原品とレプリカが混在した土偶コーナー 奥の列には、かなりの有名土偶サン達の レプリカが4体並んでいる
原品とレプリカが混在した土偶コーナー奥の列には、かなりの有名土偶サン達の
レプリカが4体並んでいる

猫顔サンの左に並ぶ3体の土偶サン達もかなり有名な顔ぶれである。残念ながら3体すべてがレプリカであるが、原品の収蔵先がしっかり記載してある。どれも八ヶ岳オフィスからは、車でそう遠くない距離である事がわかる。収蔵先に確認をとった上で、近日中に訪問しようと決めた。土偶に関連した情報が入手できるという意味で、レプリカ展示も悪くないなと思った。

その他の小型土偶サン達もジックリ鑑賞してから、「弥生時代」のコーナーへと移動した。と、ここにも土偶さんが3体並んでいる(右側の1体はレプリカと書かれている)。これまであまり目にした事のない「弥生時代の容器型土偶」である。私の「探訪記」の対象は、『土偶(埴輪は含まない)』、それも『縄文時代』に限定している。そんなわけで「探訪記圏外」の3体ではあるが、そのユニークな造形に、思わず見入ってしまった。

「弥生時代」の容器型土偶3体 右の1体はレプリカと書かれていた 縄文土偶とはちょっと雰囲気が違う...
「弥生時代」の容器型土偶3体 (右の1体はレプリカと書かれていた)
縄文土偶とはちょっと雰囲気が違う。これらもまたユニークな造形である…

その後、残った常設展示スペースから企画展示コーナーへと回り、計40分程を見学に費やした。続いて、最後の儀式(探訪記念品購入)のために、ミュージアムショップへと向かった。ここで、北杜市金生遺跡出土土偶(先程の4体の大型土偶の内、左端のもの)レプリカを見つけ、勿論、購入。この土偶のレプリカが売られているのを見たのは初めてだったので、超ラッキーだ。

これにて、山梨県立考古博物館の探訪は無事に終了。最大の収穫は「いっちゃん」との出会いだが、山梨県出土の他の有名土偶の所在先(地)が判明した事の意義も大きい。また、「縄文、満喫。」と題したA4裏表1枚の案内資料(リーフレット)を入手した。裏面には、山梨県下7カ所の考古博物館・資料館の案内図・連絡先が記してあり、とっても便利である!この資料をベースに次なる探訪予定を組もうと心に決めた。

博物館で入手したパンフレット表面 『縄文王国 Yamanashi』縄文、満喫。 とても有益なものをゲットできた!
博物館で入手したリーフレット表面『縄文王国 Yamanashi』縄文、満喫。
とても有益なものをゲットできた!

こうして、「縄文土偶探訪記」は実り多き再スタートを切ったのだった。

トリグラフ・リサーチ 稿房主
探訪日:2015年3月11日(水曜日)

『縄文土偶探訪記』 Vol.10