この時期の出張が東北で本当に良かった。今回の出張は2泊3日で3県を訪問したが、どこも東京のような耐えられない暑さではなかった。やはり気温だけでなく、湿度や空気の清涼度、それに人口密度が影響しているのだろう。特に、昨日の朝の青森はスーツを着ていても、全然苦ではなかった。本州で最も緯度が高い(=北)場所に位置する「緯度の効果」を実感した。
夕方には講演と会食があるため東京に戻ったが、その暑さに驚愕。新幹線のホームに下りた途端、ムッとした重い空気に包まれて、すぐに汗が滲み出てきたのでスーツを脱いだ。その後、会う人会う人、「東京は本当に暑いですね…」と私が言うと、相手側はキョトンとして、「この2日程、暑くないですよ。随分と過ごし易い。」といった類の言葉が返ってきた。『過ごし易い???』— 私には信じられない感覚だ。東京は誰が何と言おうと「やっぱり暑い」のだ!
青森は間違いなく「快適」だったが、それでもやはり、八ヶ岳オフィスの方が涼しいなと感じる。桜の開花時期が、弘前城よりも1週間以上も遅かった事を実際に経験済みなので、これは気のせいではないだろう。高度1,300m、周辺の森(フィトンチッドの森林浴効果)、清々しい程のカラット感(低湿度)という3点セットが効いているのだと思う。特に「高度」の威力は大きい。高度が100m高くなると、気温は概ね0.65℃下がる。昨日、青森駅の周辺で「ここは海抜2m」という表示の看板を見た記憶があるので、八ヶ岳オフィスは「高度ファクター」だけで、0.65℃×13倍=8.45℃ 気温が低くなる。
八ヶ岳オフィス周辺でも高度が1,000mを下回って来ると、体感温度が一気に上昇する事を富士見の町に買い出しに出る度に感じる。蓼科の別荘地は、確か高度1,500mを超すエリアもあったはずだ。八ヶ岳オフィスよりも、さらに涼しいだろう。だが、裏返せば、冬の自然環境は高度が高い程、厳しい事になる。このバランスをどう考えるかは、快適な八ヶ岳ライフを送る上で、極めて重要なポイントになる。八ヶ岳に第2の拠点を設ける際に片っ端から読んだ「田舎暮らし推奨系」の本に、高度の大切さに触れたようなものは、ほとんど無かった。山での暮らしにおいての「高度」の大切さに言及しない指南書は「本物」ではない。
体感温度を定量的に説明する「ミスナール計算式」をしっかりと学んだ上で、先程の高度と気温の変化の関係を思い起こせば、夏場の快適さや冬場の過酷さを想像する事が出来るのだ。かく言う私は、拠点探しの際には、コンパス、メジャーは当然ながら、わざわざ高度計も購入して臨んだ。
結局、オフィスのある同じ別荘街区を見た瞬間に気に入って、購入をほぼ即断したので高度計の利用はたった1回だった。同じ別荘街区のオフィス周辺は1,320mと表示された事を今でもハッキリと覚えている。私がターゲットとしていた1,200〜1,400mのほぼ中央、ドンピシャだったのだ。
私が購入を検討した段階で7区画が購入可能だったのだが、これについても現在の区画にスンナリと決まった。同じ別荘街区内では一番奥で、暗く鬱蒼とした、森に埋もれるようなエリアだった。当時、社主さまは「なんでわざわざ一番荒れて暗い区画を選ぶの?」と不満げだったし、不動産屋さんも「一番残るかと思っていた場所が最初に売れて意外だった。」と売買契約締結後に本音を漏らしてたな…
私は以前にも書いたように「西日がしっかりと長く射す」「眺望よりも森に守られた場所(=風が強く吹き付けない)」を最優先としていた。また、当時の状況にのみこだわるのではなく、手を加えればどれだけ良くなる土地か、駐車スペースが複数台確保できるか、周辺土地の追加購入可能性があるか等々、様々な要因を考慮した。ちょっと格好付けて言うと、アナリストお得意の「未来(将来)予測」をしたのである。その上で「ここしかない!」と確信したので、この時だけは、社主さまの意見はまったく聞き入れなかった。
八ヶ岳本宅購入から7年目を迎えた時に、DIY雑誌「ドゥーパ」が、私の八ヶ岳ライフを紹介してくれた。そのインタビューの際にも、社主さまは「何でこんなに暗くて荒れた場所を選んだのか最初は訳がわからなかった。」みたいな事を記者さんに語っていたな。その後には「でも、自分達で手を加えたら、見違えるように良い場所になった。」と続くのである。
今でも八ヶ岳滞在中に、社主さまは思い出したように「この場所を選んだあなたは、本当に見る目があるわ。」と褒めてくれる。私が、如何に徹底した事前リサーチをしたか説明しても、おそらくわかってもらえないだろう。調査を生業とする人間の「こだわり」とはそういうものなのである。「小鉢男」の妙なこだわりとは、ちょっと質が違うのだ…