【縄文土偶探訪記 Season 1 Vol.1】 函館市縄文文化交流センター(北海道)

今回の小災厄期は、函館への役員慰安旅行と見事に重なってしまった。慰安旅行と言っても、取締役である家内と2人の小旅行である。貯まりに貯まった エアラインのマイルと保有するリゾート会員権のオフ・シーズン&平日低ポイントを活用した「ゼロ・コスト旅行」だ。函館に特にこだわりがあったわけではな く、低ポイントですぐに予約可能であった事が、場所選定の最大の理由である。全国講演等で多忙であった私は、家内に函館版の「るるぶ」を渡して、飛行機とレンタカーの手配だけをした。獲得賞金ゼロのプロテニス・プレイヤーである家内は、旅行の計画だけは、ほぼ完璧に組んでくれる。

初日の函館市内観光は、晴天の中で終える事が出来た。函館山の展望台から見る市内の夜景は、前評判通り本当に美しかった。問題は2日目だ。「晴れ男」の私には珍しく「朝から雨、午後から天気回復」の予報である。当初は、朝から五稜郭を訪れる予定だったのだが、午後に回した方が良いとの判断に至っ た。そこで、午前中は急遽、ドライブを兼ねてちょっと遠出しようという話になったのだ。さぁ、どこに行こうか?るるぶをパラパラめくっていると、ふと「2011年10月に国宝中空土偶の常設展示場がオープン」した旨が紹介されていた。何故か、目が釘付けになった。調べてみると函館市内から車で1時間強の「函館市縄文文化交流センター」という所に展示されているらしい。家内に「ここ行きたい!」と言うと、すぐに「いいよ」という答が返ってきた。

小学校高学年の時に、自宅から徒歩で5分程の距離にある山林が、砂利採取の目的で掘り崩された。そして、その場所から縄文・弥生時代の遺跡が見つかったのである。後に「健田郷(たけだごう)遺跡」と命名された。もう40年以上も前の事である。何回か小規模な発掘調査が行われたと記憶しているが、その後はただ平坦な「畑」が広がる変わった雰囲気のエリアとなった。埋蔵文化財保護法がどのようにワークしたかは、今となっては定かではないが、ちょっと歩くと土器のかけらが転がっている。畑の隅には、農作業の際に掘り出された土器の破片が無造作に捨てられていた。

土器のかけらを収集し、分類・整理するのが楽しくて楽しくて、小学校5〜6年の頃は、学校が終わると毎日のように、この「遺跡なのか畑なのかよくわからない」場所に出向いた。土器を拾っても誰も咎める人はいない。あまりにも毎日通っていたので、顔見知りになった農家の人は、わざわざ畑から出土した土器を私のためにキープしていてくれた程だ。考古学に嵌まったのがこの時期だ。理由はよくわからないが、弥生時代には興味が湧かず、縄文時代の土器や土偶に異様な愛着を感じた。『火焔土器』や『遮光器土偶』などが特にお気に入りのアイテムだった。当時は考古学者になるのが夢だったのである。それなのに、何故か、銀行アナリストなどという仕事をしている。人生とは、本当に予測不能なものだと思う…

2年以上も続いた「考古学熱(実際には縄文熱)」は中学校に進学するとほぼ同時に、あっという間に冷めてしまった。これは、私にとって珍しい事ではない。ところが妙な事に今年の初め頃から、また「縄文熱」が復活しつつあったのだ。出張の移動時間中には、星野之宣の「宗像教授」シリーズや「ヤマタイカ」をiPadで読み返すようになっていた。山形や青森に出張に行った際には「縄文の女神」や「しゃこちゃん」を見に行きたいなぁ〜などと考えていたのだ(残念ながら実現はできていない)。

そんな折の「函館旅行」である。国宝 中空土偶の事は知っていたが、それが函館で常設展示されてる事は、「るるぶ」を見るまで知らなかった。まったくの「偶然」である。小学生の頃のように、胸をときめかせながら「縄文文化交流センター」へと向かった。

函館市縄文文化交流センターの外観 コンクリートの打ちっ放し風の外装は、安定感があり、違和感なく周囲の風景と融和している。
函館市縄文文化交流センターの外観 コンクリートの打ちっ放し風の外装は、安定感があり、違和感なく周囲の風景と融和している。

平日しかも雨であったためか展示施設は、私と家内のほぼ貸し切り状態である。センターの職員の女性が、私たちの専属であるかのように展示物について丁寧に解説してくれた。これが穏やかな語り口で心地良い。30分程、様々な展示物を見学して回った。最後 は勿論「国宝 中空土偶」の展示室である。期待に胸がさらに高鳴った。

遂に出会いの瞬間が訪れた。薄暗い展示室の中央のほのかな照明の下、「中空土偶」はまるで宙に浮かんでいるかのように佇んでいた。「神々しい!」そうとしか表現できなかった。そ の瞬間、身体の中心に、いつもより大きな熱い塊が灯った。ぱり〜ん! 小災厄期が終わった瞬間である。何故か、懐かしくて、愛おしくて、可能であれば抱きしめたい思いがした。国宝なので写真撮影は無理かなと思ったのだが、フラッシュ撮影でなければ可との事。「激写」した写真の内の2枚を『銀行業界鳥瞰図』で紹介しよう。

展示室の中央に浮かびあがる「かっくうちゃん」の全身像

「かっくうちゃん」のアップ写真

文化交流センターの方の解説によると、この土偶の名前は「茅空(かっくう)」というのだそうだ。以前、学術的MRI検査を受ける際には女性として診察券が発行されたとのことなので「かっくうちゃん」である。約3,300年前の土偶で、国宝であるにもかかわらず、文化交流センターに常設展示されるまでは「町役場の金庫」に保管されていたとの事。

この「かっくうちゃん」から伝わってくるパワー(波)は、上品で暖かい。色は、私の大好きな「淡めの萌葱色」だ。今、 流行のパワー・スポットではなく、超上級のパワー・アイテムである。何時間眺めても飽きない気がした。とは言っても、家内との旅行の途中であり、その後も 予定が組まれていた。後ろ髪引かれる思いで「かっくうちゃん」の展示室を後にした。勿論、文化交流センターの売店で「かっくうちゃんグッズ」を買いまくったのは言うまでもない。

7月初旬から取り組んできたオフィスのセルフ・ビルドは、もうすぐ大団円を迎える事になるだろう。かっくうちゃんとの出会いにより、私は次の大きな目標が出来た。全国各地の縄文時代の遺跡を訪問しようと思う。これからの私は「銀行アナリスト 大久保」であると同時に、「縄文ハンター 大久保」となる事をここに宣言したい!地元に「縄文時代のお奨め遺跡」がある地域銀行の方は、是非、情報提供いただきたい。全国講演と遺跡訪問がパッケージ化できたら最高である。

トリグラフ・リサーチ 稿房主