2013年7月28日、午前7時40分、八ヶ岳本宅脇の町道にレンタルした大型クレーン車が入ってきた。予想はしていたが、やはり大きい。
運転手 件 オペレーターさんにすぐにご挨拶。若くて、お顔は貴乃花親方にちょっと似ていた。高校を卒業して、重機を扱うための学校に通い、現場に出るようになってからはまだ日が浅いことを昼食の際に知った。だが、その腕前は、Tさんも感心する程で、本当に良いオペレーターさんだった。
作業手順の打ち合わせを済ませて、8時過ぎから作業を開始。オペレーターさんに部材の量と工程を説明し、1日で終わりそうかと尋ねると「大丈夫と思いますよ。段取りさえ良ければ。」という、喜んで良いのか駄目なのか、微妙な答えが返ってきた。
でも、前に進むしかないのだ。『皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ、各員一層奮励努力セヨ。』この日、トリグラフ・リサーチは目には見えないがZ旗を掲げた。
作業開始時の天気は晴れ。だが、天気予報では午後から天気が崩れるとの事。作業は時間との闘いとなった。この日の助っ人は、TさんとTさんの娘さんのご主人のKちゃん、そして、当時は某信託銀行の静岡支店に勤務していた長男のSである。軍隊の工兵部隊に所属したら、抜群の能力を発揮するであろう家内が加わっていたのは言うまでもない。
作業はこの日も適材適所の分担制。作業工程を熟知している私が、クレーンの脇で、部材をワイヤーにロックし、送り出す作業を担当。
オフィス側の部材受取サイドでは、Tさんをリーダーに計4人がログ壁材の設置・固定作業を担当。下準備に手間暇かけた甲斐があり、極めて順調に作業が進んだ。
途中、作業の進み具合を心配してW社長が顔を出してくれた。手際の良さにちょっと驚かれたようで、初めて誉めてもらった。
私が、図面を見ながら作業を進めるのに気が付いたらしく、「それは何ですか?」と尋ねられた。私の手書きの作業手順書を見せたら、連続でお誉めの言葉をいただいた。
「相当入念に準備をしたようですね。感心しましたよ。あと心配なのは天気だけですね。」という言葉を残して、W社長は他の現場の巡回に向かった。
確かに、作業開始から2時間ほどで、青空はすっかり雲に覆われてしまった。順調などと喜んでおらず、どんどん作業を進めねばならない。
昼食と休憩も1時間弱で済ませて、午後も作業に没頭。肉体作業や工具の扱いが苦手な長男のSを部材送り出し側と受取側の連絡係にコンバートし、作業の流れの中で遊軍的に人手不足となるところをサポートさせるようにした。
次男Cと異なり決して器用で要領の良いタイプではないが、冷静で全体の作業の流れを俯瞰する能力に長けているようで、作業効率が一段とアップ。コンバート成功であった。これによって、TさんとKちゃんが、ログ壁の設置と固定作業に専念できるようになったのだ。
午後3時頃にはいつ雨が降り出してもおかしくない空模様になった。部材も残り少なく、かつ、小さくなってきたため、最後の追い込みをかけるため、私も木の釘を打ち込む固定作業に参戦。
結局、午後4時前にログ壁の立ち上げ作業はすべて完了した。
オペレーターさんに確かめると、午後5時までは作業O.K.との事なので、万が一、時間に余裕が出来たらついでに済ませようと、準備していた屋根や天井工事で使う部材の搬入に取り掛かった。
クレーンによるすべての搬入作業が終わったのは、午後4時40分。空は真っ暗な状況だったので、急いでオフィスと部材をブルーシートで覆わねばならない。
オペレーターさんにお礼を伝えると「今日は一度も部材の吊り直しがなかった。素人さんの工事と聞いていたが、そうとは思えない手際の良さだった。」とこれまた褒められた。
長きに亘るオフィスのセルフビルド作業で、こんなに褒められ続けたのはこの日が最初で最後となった。
オペレーターさんを見送り、5人全員でブルーシート作業に取り掛かり、この日の全作業を無事に終えたのは、午後5時半ちょっと前。そして、そのほんの数分後、まるでスコールのように強烈な雨が、建設途上の八ヶ岳オフィスに降り注いだのである。
「ああ、やっぱり神様はいらっしゃるんだ。今日は見守って下さったんだ。」そう感じたのは、私だけではなかっただろう。
後日、嬉しく思った事がある。既に記したが、W社長はセルフビルド作業開始の頃の私達を見て、「正直、完成には至らないだろう。」と感じたそうだ。だが、この日の無駄のない作業ぶりを見て、逆に「この人達は大丈夫だな。」と確信、認識を改めたそうだ。
一方、悲しい出来事もあった。作業の途中からKちゃんが指の痛みを訴えていたのだが、川崎に戻って病院に行った所、骨折していた事が判明したのだ。以降、八ヶ岳オフィスのセルフビルドは貴重な助っ人戦力を失った中で、悪戦苦闘を続ける事になる。
だが、物事はよい方向に考えるべきであろう。素人のログハウスのセルフビルド作業では、手足の切断といった大事故に至るケースがかなり頻繁にあるそうだ。事故はなくとも、工事作業の進め方に意見の食い違いが生じて、人間関係をすっかり壊してしまうことも多いらしい。
幸いと言っては不謹慎だが、我がオフィスのセルフビルドにおいては、Kちゃんの指骨折と完工後に私が脚立から転落して全身打撲(自爆テロ)を負っただけで済んだのである。
そして、屋根工事では、Kちゃんに代わって助っ人に加わった三男Eが、事前の期待を大きく上回る大活躍をしてくれる事になる。世の中、本当に何が起こるかわからない。だから楽しいのだ!
こうして、【オフィス・セルフビルド回顧録】ログ壁立ち上げまでの激闘編は幕を閉じた。