昨晩遅くに東北出張から川崎自宅に戻った。明日からは、甲信越、東海、九州と出張続きになる。今日は、貴重な出張の中休みなので、講演の補足(おまけ)資料として使うXYプロット図の作成に時間を費やした。
思うに、日銀の異次元緩和策導入後の銀行業界は「金利(利回り)低下と泥沼の戦い」を繰り広げてきたと言えるだろう。そして「マイナス金利政策」という新たなフェーズに移行する事によって、この苦闘が「破断界を超えた」というのが私の認識だ。
そこで、アベノミクスや異次元金融緩和と無縁であった2012年9月中間期と2015年9月中間期の貸出金及び有価証券の利回りとその変化を示す資料を作る事にした。対象は勿論、全銀協加盟行すべてである。全店(国内・国際業務合算)ベースでデータを抜き出して、単純平均値を計算してみた。
貸出金利回りは、2012年9月中間期の1.77%が、2015年9月中間期は1.46%へ急低下。これじゃあ、預貸金利息収支がどんどん減るわけである。来年度は、おそらく1.3%を下回るよな… 背筋がちょっと寒くなった。
一方、有価証券利回りは、金利低下局面であったにもかかわらず1.00%が1.24%へと大きく上昇していた。「恐るべし!私募投信のトレーディング運用の成果だな…」思わず、呟いてしまった。個別銀行のプロット図上のバラツキがこれまた大きくて面白い。我ながら、お洒落な資料が仕上がったものだと満足。おっと『稿房通信』では、銀行ネタは御法度だった。ここまでとしよう。
資料作成を終えた後、自宅書斎の書棚を整理する事にした。ビジネス関連の蔵書約1,400冊は八ヶ岳オフィスへ、DIY、野鳥、文具等々の「趣味系」の本(数えた事はないが、かなりある)は八ヶ岳本宅の書斎に置いてある。川崎自宅の書棚には、語学、科学系等、残存部隊が配してあるだけだ。
未分類の文庫と新書が70~80冊残っていたので、これを整理しようと書棚から抜き出したら、数冊目に「本当に大切な本」が現れて驚いた。荒川じんぺい氏著『週末は森に棲んで』である。あれっ、荒川先生の本はすべて八ヶ岳本宅の書棚に並べてあるはずなのに、なんでこの1番大切な本がここにあるんだ?
実は、この本こそが、私が八ヶ岳に拠点を構える切っ掛けとなった「原点」の本なのだ。あれは、今から17年以上も前、1998年の秋の事だった。当時勤務していたJ.P.モルガンの投資顧問会社のグローバル・アセットアロケーション会議で、私は不良債権問題に苦しむ我が国銀行業界の状況についてプレゼンする事になった。
会議の2日目に大役を終えた後は、邦銀のロンドン支店を7~8行訪問し、支店長や副支店長に面談し、外貨調達の状況や今後の海外ビジネスの方向性等について、かなり密なヒアリングを実施した。当時はジャパン・プレミアムの最悪期とも言える状況であったので、ほとんどの銀行は「開店休業」とも言える事態に陥っていた。
「信用」という見えない財産で成り立っている金融業の「儚さ」や「脆さ」を実感したのがこの時であり、やっぱり「虚業」だなと確信した。「こんな世界にドップリ浸かっていたら、人間おかしくなる。もっと実態のある世界に軸足を置かなくちゃ駄目だな。」そんな事を考えながら、ロンドンから成田への帰りの便で読んだのが、この『週末は森に棲んで』だったのである。
この本を買ったのは、本当に偶然だった。出張の前日、最寄りの新百合が駅近くの書店に立ち寄り、飛行機の中で読むための本を物色した。あの頃は「京極夏彦」「宮部みゆき」「真保裕一」等の本を選ぶのが常であったのだが、どういうわけか控えめに平積みされていたこの本が気になった。荒川じんぺい? はて知らない作家だな… でも「棲んで」って言う表現が、なんかヌメッとしていて面白そうだな。そんな風に感じて、中身も確認せずに4~5冊まとめ買いした中の1冊とした。
そして、帰りの便で真っ先に手にしたのがこの本だ。内容は、都会生活にストレスを感じた著名な装丁家である著者が、山梨県の小淵沢(現 北杜市)に週末居住用のセカンドハウスを持ち、そこで暮らす日々の出来事を綴ったものである。
「虚業感」に嫌気がさしていた私の心にスッと染み通るような内容で、成田に着くまでに2回繰り返しで読んだのをまるで昨日の事のように覚えている。ロンドンから戻るとすぐに、作者の他の書籍を調べた。小淵沢に居を設けるまでを綴った「僕は森に家出します」と同じく八ヶ岳周辺での生活の楽しみをエッセイにした「森の作法」もすぐに追加で注文した。私は、これを「荒川さんの森の3部作」と名付けて愛読書としたのである。そして、ロンドン出張から1ヵ月も経たない内に、現在の八ヶ岳の拠点となる土地探しを始める事になる。
どうです、素敵な表紙でしょう!
トリグラフ・リサーチ 稿房主
オフィスセルフビルド回顧録