【縄文土偶探訪記 Season 1 Vol.2】三内丸山遺跡(青森県)

探訪博物館: 青森県 三内丸山遺跡
http://sannaimaruyama.pref.aomori.jp/
探訪日: 2014年2月15日
探訪目的: 大型板状土偶さん 他

「ちょっと遊び心をまぶした全国講演」ーーー これが今シーズンからの新たな取り組みである。寝台特急サンライズ瀬戸での移動は、正にその一環である。ただし、メインの遊びではない。「講演の隙間時間や土曜日・日曜日に全国の縄文遺跡を訪問する」ーーー こちらが究極の「遊び心」である。以前、役員慰安旅行@函館で、国宝中空土偶「かっくうちゃん」との偶然の出会いに感動したことをお伝えした(第265号https://triglav-research.com/?p=5644) 。以来、有名縄文土偶への憧れが募っている。私にとってアイドルとは、1位「平原綾香」、2位「柴咲コウ(女優ではなく歌手として)」なのだが、「かっく うちゃん」「しゃこちゃん」「縄文のヴィーナス」等々は、既に同レベルの次元にある。ファンクラブがあったら入りたい位だ!

自爆テロの影響で仕事が出来なかった2週間、時間があれば「縄文土偶」の写真集を眺めていた。年 末年始に鑑賞しようと思いAmazonで売れ筋2冊を購入しておいたのだ。かっくうちゃんも凄いけど、「縄文のヴィーナス」「縄文の女神」等々はうっとり する程美しい。「しゃこちゃん」や「仮面の女神」は美というよりも、これは何のために作られたんだろうかという興味が湧いてくる。兎に角、実物を見てみた いという思いが日増しに膨らんできた。

そんなわけで、今シーズンの全国講演の前に「有名土偶」の出土マップを簡単に作ってみた。改めて驚いたのが、オフィスがある「富士見町」とそれに近接する「茅野市・諏訪市(長野県)」、「北杜市(山梨県)」が縄文遺跡の宝庫である点だ。これらを訪れるだけで、全体の1/3以上はカバーできそうだ。長野・山梨に匹敵するのが「東北縄文王国」である。通常、全国講演では「東北全県」を数回のトリップで訪問する。綿密な予定を組めば、講演旅行のついでに縄文遺跡を訪れることは十分に可能である。

早速チャンスがやってきた。今シーズン第2巡目の東北トリップが、14日に組まれたのは、既に『銀行業界鳥瞰図』でレポート済みである。寝台特急と新幹線を乗り継いだ移動としたため、午後スタートの最初の講演までに2時間程の空き時間が出来た。目指す第1のターゲットは「三内丸山遺跡(青森)」である。ここには、重要文化財である「大型板状土偶」と有名な大型掘立柱建物跡(復元建物)が ある。また、土曜日(15日)には、遮光器土偶「しゃこちゃん」が出土した「亀ヶ岡遺跡(つがる市)」か、国宝「合掌土偶」の出土した風張1遺跡・是川縄 文館(八戸市)のどちらかを訪問しようとプランを立てた。中国地区トリップの際に「縄文遺跡回るんだ~い」と自慢げに、同行する講演アレンジャーさん達に 伝えると、冷たい言葉が一斉に返ってきた。「東北雪ですよ。遺跡なんて雪に埋まってるはずだし、無謀でしょ!」

あぁっ、雪のことまったく忘れてた...(>_<) 「外にある遺跡の見学が目的ではない。ターゲットは、博物館に飾られている土偶だ!」強がりを言ってみたが、不安が一気に高まった。青森の雪は凄いんだろ うな~。不安が募る中、新青森駅に新幹線は定刻通りに到着。早速、観光案内所で三内丸山遺跡が見学可能かを確認した。結論は「可能」、見学時間は様々な コースがあるが1時間もあれば、一通りは見て回れるとの事。宿泊予定のホテルからはタクシーで15分程度の場所なので、時間的にも問題はない。市内のホテ ルでチェックインを済ませると、そのまま三内丸山遺跡へと向かった。市内の雪は、昨年の訪問時に比べると驚く程少ない。長野オフィスの雪の方がはるかに深 い感じだ。問題は寒さである。遺跡には15分ちょっとで到着。タクシーをおりてみたが「寒くない」。朝は、毎日のように零下10度を下回る長野オフィスに 比べるとむしろ「暖かい」のだ。オフィスの過酷な自然環境に鍛えられ、私はすっかりワイルドになったようだ。

三内丸山遺跡『縄文時遊館』の外観 周囲を雪に覆われているが、堂々たる施設である事が伝わってくる。
三内丸山遺跡『縄文時遊館』の外観 周囲を雪に覆われているが、堂々たる施設である事が伝わってくる。

優 しい受付のおね~さんにパンフレットや案内図を渡され、「遺跡探訪の旅」の幕開けである。入館・入場料は無料。なんて良心的なんだ 三内丸山遺跡! 受付から少し歩くと、左手に遺跡への入り口となる通路(トンネル)が見えてきた。屋外遺跡なので、雪道を歩くことは避けられない。でも心配ない。冬の東北 トリップは、完全防水・撥水処理済みの滑り止め付ビジネス・シューズで回るのが私の嗜みである。トンネルのドアを開けると...「そこは正に雪国だった。」

これから先を書くとつらくなる。雪に埋もれた遺跡の中をひたすら40分程歩き続けた。2 回転びそうになったが、何とか持ちこたえた。自爆テロの恐怖が癒えぬ身体が慎重になっているのがわかった。高校生の頃見た映画「八甲田山」の寒々とした光 景とそこで兵隊さん達が歌っていた軍歌が頭に浮かんだ。「雪の進軍氷を踏んで、雪の進軍氷を踏んで、ど~れが河やら道さえ知れず、馬は斃れる捨ててもおけ ず、...」我ながら、無駄に凄い記憶力だと感心してしまう。これ以上書くと、つらさに泣き出してしまいそうなので、頑張って撮影した遺跡の名前が刻まれ たオブジェ(?)と大型掘立柱復元建物の写真だけ紹介しよう。ちなみに「雪の進軍」中、目にしたのは1組3名のおばさん達だけである。

オブジェと言うよりただの「遺跡名」を示した印か?
オブジェと言うよりただの「遺跡名」を示した印か?

有名な「大型掘立柱復元建物」である。 予想していたよりも大きい... でも寒い。

有名な「大型掘立柱復元建物」である。 予想していたよりも大きい... でも寒い。

死の雪中行軍を終えた後、館内(室内)の展示室で、お目当ての「大型板状土偶」に対面、写真撮影をした。つらさはかなり薄らいだ。施設見学を終え、遺跡グッズ・ショップで買い物を終えた頃には機嫌も良くなっていた。アベノミクスを成功させるためにも、日本人はどんどん趣味にお金を使わなくてはならない。オフィスのセルフ・ビルドも遺跡探訪の旅も、すべては日本経済再生のためなのである。さあ、明日は、亀ヶ岡遺跡と是川縄文館、どちらを訪れようか...

お目当ての「大型板状土偶」に遂にご対面

お目当ての「大型板状土偶」に遂にご対面

ホ テルへの帰路に乗ったタクシーの運転手さんは、驚く程に遺跡の知識が豊富だった。三内丸山遺跡のタクシー乗り場で待ちをしている事が多いためらしい。これ は好都合と思い、「しゃこちゃん」と「合掌土偶」のどちらに会いに行くかを相談した。運転手さんが話した内容を標準語で要約すると ①亀ヶ岡は雪が深い。遺跡まではタクシーで移動するしかないが、かなり時間がかかる。木造駅までの列車は本数が少なく、列車の待ち時間がかなり必要 ②八戸は元々、雪は少ないのだが、今年は雪が例年より多いようだ。そして、凍る程に寒い。八戸駅から縄文館までは、通常、バスを使うが本数が少なく、アク セスは決して良くない。どっちもどっちという感じの憂鬱な情報ばかりだ。遺跡について色々と話をしている内に、タクシーはホテルに着いた。

最後の最後に運転手さんは、すまなそうに爆弾発言をした。「どっちの土偶は本物は上野(国立博物館)だ。こっちで見れるのはどちらも模造品(レプリカ)だよ(標準語翻訳済み)【※注】」『きっ、聞いてないぞ~。しゃこちゃんと合掌土偶の本物には、青森では会えないのか!」 翌15日の新幹線の運行状況が不安だった私は、躊躇なく2日目の縄文遺跡探訪を中止。新青森発15時42分で予約してあった新幹線を8時7分発の臨時列車へと変更した。こうして、私の初の「全国講演&縄文遺跡探訪共同企画」は幕を閉じたのだ。

教訓
① 雪深い地での冬の遺跡探訪は極力避ける。やむを得ない場合は万全の装備で臨む。
② 有名土偶については、出土場所だけでなく、現在の「所蔵場所(展示場所)」の確認を忘れない。

【※注】自 宅に帰ってから改めて調べてみると、運転手さんの指摘通り、しゃ こちゃんは上野国立博物館の所蔵となっていた。一方、「合掌土偶」は、是川縄文館に展示されていると判明した(運転手さんの勘違いだったようだ)。但し、 国宝クラスの土偶は、国立博物館の「土偶展」や海外の有名博物館に出稼ぎに行く事もあり、やはり、訪問前に「現在の居所」を確認する事が必須のようだ。今 回は、完全に私の事前リサーチ不足であった。但し、15日の是川縄文館(八戸市)訪問を見送ったおかげで、新幹線で無事に東京に戻れたわけであり、結果 オーライだったと言える。「合掌土偶」との対面は、少しの間、お預けである。

トリグラフ・リサーチ 稿房主