【縄文土偶探訪記⑳】— 市立 岡谷美術考古館(長野県)

松本市立考古博物館を午後1時15分過ぎにD4で発ち、次なる目的地「市立岡谷美術考古館」へ と一般道で向かった。途中、遅めの昼食を摂り、美術考古館の駐車場に着いたのは午後2時半ちょっと前だった。これまで訪問した考古系博物館のほとんどは、 市の中心部から外れた郊外のような場所にあったが、ここは、JR中央線岡谷駅から徒歩で5分程の好立地で、周辺は商店街だった。建物の間口は、これまで訪 問した考古系博物館の中では最も狭いように思う。正に「街中(まちなか)の博物館」といった風情である。

市立 岡谷美術考古館の外観。「街中」にあり、隣に建物がある考古系博物館を訪問するのは初めてのような気がする。奥行きがある建物で、間口から想像するよりもはるかに広い展示スペースを有していた。
市立 岡谷美術考古館の外観。「街中」にある博物館だ。隣に建物がある考古系博物館を訪問するのは初めてのような気がする。奥行きがある建物で、間口から想像するよりもはるかに広い展示スペースを有していた。

道路からちょっと奥まったエントランスを入ると、すぐ左手に受付があった。受付には女性職員さんがひとり。岡谷市出身で、昨年9月に亡くなった現代美術画家「辰野登恵子先生」の追悼展を開催中である旨の説明を受けた。入館料500円(追悼展込み)を支払い、早速、2階の考古展示室へ向かう。考古展示室は、2つの部屋に分かれており、共にゆったりとしたスペースの使い方をしていた。

2階「考古展示室」の左側展示スペース。ゆったりとした展示スタイルで、照明はやや薄暗く、照明の当たった展示物が際立つような雰囲気を醸し出している。
2階「考古展示室」の左側展示スペース。ゆったりとした展示スタイルで、照明はやや薄暗く、照明の当たった展示物が際立つような効果を発揮していた。

階段を上がって左側スペースの入り口近い所に「土偶さん」展示コーナーはあった。土偶さん関連の展示品数は23点。「他にもないかな?」と思い、左右展示スペースを2回程サラッと見て回ったが、これですべてだった。

「土偶さん」展示コーナー。「松本市立考古博物館」の場合のように、この他にも「単独展示」の土偶さんがいらっしゃるかなと思って探したのだが、ここだけだった。
「土偶さん」展示コーナー。「松本市立考古博物館」の場合のように、この他にも「単独展示」の土偶さんがいらっしゃるかなと思って探したのだが、ここだけだった。

岡谷美術考古館で対面したかった土偶さんは、ズバリ「壺を持つ妊婦土偶」さんである。彼女は、なかなかの有名土偶さんで、「土偶・コスモス(羽鳥書店)」「縄文土偶ガイドブック(新泉社)」共に、カラー写真で紹介されている。実物が、ここに収蔵されている事は、勿論、事前に電話で確認済だ。上掲の写真では、最後列右から2体目にいらっしゃる。独特の雰囲気を醸し出しているので、すぐにそれとわかった。ところがである。目を近づけてよくよく見ると、小さく控えめに「レプリカ」と書かれたプレートが置かれているではないか。はぁ~ 何なんだ!

探訪お目当ての「壺を持つ妊婦土偶」さん。「感動のご対面」と思ったのだが、よく見ると「レプリカ」と書かれた小さなプレートが置いてある。きっ、聞いてないぞ!
探訪お目当ての「壺を持つ妊婦土偶」さん。「感動のご対面」と思ったのだが、よく見ると「レプリカ」と書かれた小さなプレートが置いてある。きっ、聞いてないぞ!

実 物が展示されている事は、数日前に確認したばかりなので、他の博物館への出稼ぎは有り得ない。おそらくどこかに単独展示スペースが設けられているに違いな いと思い、直ちに1階の受付へと戻り、先程の女性職員さんに、実物の所在を問うた。すると「2階の土偶展示コーナーにありますよ。」という答が返ってきた のだ(??)。2階の2つのスペースを確認して回ったが、それらしいモノが見つからなかった旨を伝えると、職員さんはすぐにピンときたようだ。「レプリカの側に並んでいる頭や胸、胴体などのパーツが実物なんですよ!」という意外な言葉が返ってきた。ああ、そうなんだ…

2階の土偶さん展示コーナーを再度訪れ、注意深く鑑賞した。ナルホド、レプリカの下に並ぶパーツを組み合わせると「壺を持つ妊婦土偶」さんが完成するのがわかる。自身の早とちりを恥じると共に「この展示方法も有りだな」と、ちょっと感心してしまった。

「壺を持つ妊婦土偶」の実物は、レプリカの下に並んだ「パーツ(5点)」でした。上3つのパーツの部位はわかるのだが、下2点はどこの部分だろうか?
「壺を持つ妊婦土偶」の実物は、レプリカの下に並んだ「パーツ(5点)」でした(写真中央)。上3つのパーツの部位はわかるのだが、下2点はどこの部分だろうか?

この土偶さんは「目切遺跡(縄文時代中期)」出土で、岡谷市指定有形文化財となっている。美術考古館のWebには「妊娠した女性をあらわし、豊穣と安産を祈願したものとされる。壷を抱えて腰に手をあてたポーズの完全な姿は、国内でただ一点という貴重な土偶。」との解説文がある。確かに、このタイプの造形はレア物だ。でも、腕がかなり長くて、3本指であるところは、南アルプス市ふるさと文化伝承館の「円錐形土偶さん(https://triglav-research.com/?page_id=12662)」にどことなく似ている。いずれにせよ「かなりの有名土偶さんとの対面」が無事に果たせたわけだ。めでたし、めでたし…

最近の探訪で目にする事が増えてきた「小型土偶」さんも何体か展示されていた。下の写真は、花上寺遺跡出土の小型土偶さんで、岡谷市指定有形文化財である。Webには「高さ4cmの超小型土偶で、小竪穴から完形で出土した。目、口、鼻、手指など細部もしっかり表現されている。」とある。

最近「小型土偶」さんとの対面の機会が増えてきている。市立 岡谷美術考古館にも、数体展示されているが、その代表選手を1体写真で紹介しよう。
最近「小型土偶」さんとの対面の機会が増えてきている。市立 岡谷美術考古館にも、数体展示されているが、その代表選手を1体写真で紹介しよう。

考古展示室を30分近く見学・堪能した後、1階の美術展示コーナーに向かい、「辰野登恵子先生」の追悼展を5分程鑑賞した。さあ、最後の儀式、ミュージアム・ショップでのお買い物だ。入館料を払う際に、土偶さん系グッズが何点かある事は確認済である。クリアファイル、一筆箋、ポストカード等等を購入。達成感はさらに高まった。

結局、滞在時間は約35分。「縄文土偶」に興味が湧かず、松本市立考古博物館で「土偶満腹状態」になっていた家内が待つD4へと向かった。さあ、次の目的地は「辰野町美術館」だ!

 トリグラフ・リサーチ 稿房主
探訪日:2015年4月18日(土曜日)

『縄文土偶探訪記』 Vol.20