【縄文土偶探訪記⑫】— 南アルプス市ふるさと文化伝承館(山梨県)

3月15日午前、探訪予定の2番手は「南アルプス市ふるさと文化伝承館(以下、南アル伝承館)」。八ヶ岳オフィスから車で直行した場合、一般道でおそらく50分位を要する場所にある。目指すターゲットは、山梨県立考古博物館3大レプリカ土偶の中央に位置する「円錐形土偶」の本物(実物)だ。この土偶さんも、土偶関連書籍にかなり頻繁に登場する「有名人」である。

韮崎市民俗資料館から「南アル伝承館」は、カーナビで距離優先設定をして移動。到着は9時50分ちょっと前となった。博物館巡りをしていて本当に助かるの は、どこも広くて無料の駐車場が完備されている事だ。愛車D4は、全長 4.85m、全幅 1.92m、全高はルーフ・バーを入れると2m近いので、ちまちましたスペースだと駐車が億劫になる。「南アル伝承館」の駐車場も広大で、駐車ラインなど あまり気にせずに、建物寄りのスペースにドーンと横付けした。伝承館の建物は、博物館というよりも何かの商業施設であったかのような雰囲気を醸し出してい た。

「南アルプス市ふるさと文化伝承館」の外観。パット見では博物館ではなく、公営のレストランか物産館のような感じであった。
「南アルプス市ふるさと文化伝承館」の外観。パット見では博物館ではなく、公営のレストランか物産館のような感じであった。

エントランスの先はすぐに受付だった。男性の職員さん(おそらく館長さんだろう)が1名。すぐに「どちらからですか?」と声を掛けられた。「長野からで す。」と答えると、「ああ、先日、土偶について電話を下さった方ですね。お待ちしてましたよ。」との返事が返ってきた。さらに南アルプス市の地勢等につい てのレクチャーのオファーをいただく。勿論、喜んでお願いした。

大型のパノラマ図を用いた説明でとても勉強になった。南アルプス市が日本を東西に分断する「フォッサマグナ」の西端、糸魚川-静岡構造線状に位置する事が再 確認できた。南アルプス市だけではなく、北杜市、オフィスの所在する富士見町、茅野市等に点在する縄文遺跡の多くは、この日本の東西分離ラインの周辺に点 在している。縄文人はどうしてこの地を選んだのか? 興味は尽きない。レクチャーは15分程で終了。

さあ土偶鑑賞の開始だ!1Fの展示スペースは「弥生時代以降」との事なので、5分程度でサラッと見学。2Fの展示スペースは「縄文時代以前」。そうお目当て の「円錐形土偶」は2階にあるのだ。ワクワクしながら階段で2階に上がる。通路状の短い展示スペースを通り過ぎ、メインの展示スペースに入ると部屋の周囲 に土器や土偶が整然と陳列されていた。予想以上の迫力だ。

「円錐形土偶」は探すまでもなかった。部屋の中央に設けられた立派なケースの中に単独展示されていたからだ。正に「主役」扱いである。愛称等は特に無いようで「鋳物師屋(いもじや)遺跡出土」の「円錐形土偶」との解説が付されていた。この土偶さん、正面から見ると、とてもユニークな形状をしている。まるで「3本指のエイリアン」のようだ。

「円錐型土偶」- 南アルプス市鋳物師屋遺跡出土。国指定重要文化財であり、海外の有名博物館に何度も海外出張している有名土偶さんだ!
「円錐型土偶」- 南アルプス市鋳物師屋遺跡出土。国指定重要文化財であり、海外の有名博物館に何度も海外出張している有名土偶さんだ!

脇から見ても、これまた不思議。両側に穴がある。「なんなのこれ?」解説文を詳しく読むと「空洞の胴部に石や土製の玉を入れ音が出るような造作」になっているとの事。「音を聞く土偶」でもあるそうだ。別の解説文には「妊娠した女性を表現」「子供を出産するための安産のお守り」「自然の豊穣と恵みを女性に託して祈った」等の文字が並んでいた。この円錐形土偶に限らず、縄文土偶の用途・役割には様々な解釈・説があり、何が真実であるかは不明。この神秘性も縄文土偶の魅力のひとつである。

「円錐型土偶」の側面。両側に不思議な穴がある。解説文によると、石や土製の玉を入れて音を出すための構造との事。要は、造作の凝った大きな「土鈴」とも言える。
「円錐型土偶」の側面。両側に不思議な穴がある。解説文によると、石や土製の玉を入れて音を出すための構造との事。要は、造作の凝った大きな「土鈴」とも言える。

円錐形土偶以外で目立ったのは、これも鋳物師屋遺跡出土の「有孔鍔付土器(ゆうこうつばつきどき)」である。3分指のまるで宇宙服でも着たかのような人型が土器胴体に浮かび上がる。私にはこれも「エイリアン」のように見える。

「人体文様付 有孔鍔付土器」- これも鋳物師屋遺跡出土。人面(人体)装飾は、なぜかこれも「円錐形土偶」と同じ3本指。私には「宇宙人(エイリアン)」のように見える。
「人体文様付 有孔鍔付土器」- これも鋳物師屋遺跡出土。人面(人体)装飾は、なぜかこれも「円錐形土偶」と同じ3本指。私には「宇宙人(エイリアン)」のように見える。

この他にもかなりの数の土偶(その一部分)が展示されていた。特に面白いのが、土偶頭部を並べたものだ。例えば下掲の写真。左端は、国宝「縄文のヴィーナス@尖石」のお顔に酷似している。右端は、どうみても「お猿さん」だ。真ん中は顔のようにも見えるし、猪や豚の鼻にも見える。縄文土偶は、本当に見る人の「想像力」をかき立てる存在である。

土偶さん達の頭部が沢山鑑賞できるのも「南アル伝承館」の特色のひとつだ。左端は、国宝「縄文のヴィーナス@尖石」にそっくりで、ちょっと感動してしまった。
土偶さん達の頭部が沢山鑑賞できるのも「南アル伝承館」の特色のひとつだ。左端は、国宝「縄文のヴィーナス@尖石」にそっくりで、ちょっと感動してしまった。

南アルプス市の地勢解説を含めたトータルの見学・鑑賞時間は約40分。名残惜しいが次の博物館に向かわねばならない。1Fに戻り、最後の儀式に臨んだ。品数は少ないがミュージアム・ショップのコーナーが有り、嬉しい事に「円錐形土偶」の小型レプリカが販売されていた。勿論、1体購入。これで土偶レプリカのコレクションもさらに増えた。

さらに感心(感動)した事がある。「大地の記憶 遺跡カラ未来へ」と題したとても立派な文化財ガイドブックが無料配布さ れていたのだ。編集・発行元は「南アルプス市教育委員会」であり、とても充実した内容だ。この資料で、「円錐型土偶」が平成7年に重要文化財(国指定)と なり、以降、イタリア、マレーシア、韓国、カナダ等の博物館に海外派遣されていた事を学んだ。大英博物館については、なんと2回である。縄文土偶が世界に誇れる「日本文化のひとつ」である事を改めて実感。「南アル伝承館」探訪も、極めて実り多きものとなった。

 トリグラフ・リサーチ 稿房主
探訪日:2015年3月15日(日曜日)

『縄文土偶探訪記』 Vol.12